質の高いクラスレスな移動空間に

走らせてみて、明らかにこれまでのボルボとの違いを意識させられるのは、走行中を含むインターフェイスだ。ステアリングコラム右側のシフトセレクターでDレンジに入れると、ダッシュボード中央に据えられた12.3インチのタッチスクリーンの最上段で、表示が確認できる。そもそもドアミラーを調整して合わせるにも、ワンペダルドライブかコースティング重視の通常ドライブモードか選択するにも、タッチスクリーン経由だ。当初は、エアコンやナビゲーション、インフォテインメントでもない車両設定も、ツーレイヤーが必須であることを煩わしく感じたが、どの機能もほぼツーレイヤ―で呼び出せることに気づくと、逆に煩雑さのない、明快で優れたインターフェイスだと感じられてくる。
街中では少しステアリングフィールが軽過ぎるか? と思うぐらい、イージードライブ寄りのセッティングだ。静止から進み出す際のアクセルペダルの反応は巧みに丸められ、無駄なトルクを見せびらかした「速いんだぜ」アピールをしないところが、大人っぽくて好感がもてる。ワンペダルモードにしておけば、キチンと静止までもっていける。減速Gも強過ぎず弱すぎずの0.3G弱ぐらいだろう、制動距離が短すぎるようであれば「送りアクセル」で残り数mまで近づく、そんな操り方がとてもしやすい。
郊外路や登りの多いワインディングなどを通常モードで走らせてみたが、速度域が上がるとステアリング応力を増してくる。中立付近はかなり直進安定性よりの味つけで、高速道路を矢のように進むのは得意科目だ。BEVはもとより静かな分、駆動モーターやインバータなどの高周波数音や足元からのロードノイズが目立つものだが、そこはさすがプレミアムBEV、コンパクトながら静粛性は高く、車内の同乗者の声の通りもいい。乗り心地は神経質な突き上げもなく、しなやかでスムーズだ。コーナーが連続する局面で、ややステアリングの切り始めが鈍く感じられたが、慣れると左右の切り返しでもクセのないハンドリングがシームレスに持続する。動的質感だけで魅せるというより、質の高いクラスレスな移動空間として安定しているが、その気になればキビキビと走らせることもできるのだ。
以前はBEVといえばCO2さえ排出しなければすべてOKという調子だったが、乗っている間だけクリーンでも、ことほど左様に簡単ではない、という今日のカーボンニュートラル事情を、完璧な解は存在しないにせよ、上手く汲み取ったエシカルなBEVといえる。日本での車両価格はシングルモーターが559万円、補助金を鑑みれば実質500万円アンダー。それこそ、もう新興メーカー製BEVに手を出している場合ではない、そう思わせる説得力だ。
文・南陽一浩 写真・ボルボ・カー・ジャパン 編集・iconic