絶対的な速さより、MTを駆使した楽しさを

試乗車は色鮮やかなパイソングリーンのMT仕様車だった。タイプ991の前期型では違和感を覚えた7速MTも洗練度が増しており、さすがはポルシェというべき節度感、操作フィールを実現している。通常は2〜5速をメインに、7速は主に高速道路などでクルージングギアとして使うことになるだろう。
シャシーはかためられ、車高は標準より10mm低く、タイヤサイズは1インチアップされているものの、GTSやGT3などGT系に感じる威圧感のようなものはない。あくまでカレラの延長線上にあるもので、ステアリングフィールはとても素直で、フットワーク軽く、軽快で、街乗りも快適にこなせる。


911は世界的にセールスが好調で、来年には後期型へのモデルチェンジが噂されるためすでに新車の受注はストップしていると聞く。もし幸運にもこのモデルを購入できるのなら個人的には間違いなくMTを選ぶ。スペックだけをみれば、0→100 km/h加速 はMTが4.5 秒なのに対してPDKは4.0 秒。0→200 km/h加速は、MTが15.1 秒に対して、PDKは14.2 秒と1秒近くもの差がある。サーキットであれば勝負にならないだろう。それでも最新の911をマニュアルトランスミッションを駆使してドライブすることには、サーキットを速く走ること以上の楽しさがある。
911が世界中で支持されているのは、60年間ずっと変わらない美点があるから。愛らしいスタイリング、適度なボディサイズで、水平対向エンジンによる気持ちよさや運転の楽しさを備え、エンジンをリアに配置することで4座、もしくは広い室内空間を確保し、デイリーユースに使える快適性をバランスさせている。ポルシェは911のことを“日常使いのスポーツカーの典型”と述べているが、911Tは今まさにそれを体現しているモデルだろう。
文・藤野太一 写真・郡大二郎 編集・iconic