乗り手の理性に訴えかけるエクストリーム仕様


いざ実車に箱根で乗った時の印象を記しておくと、カーボンシェルにスポンジパッドを貼り付けただけのような、バケットシートが意外なほど快適であることに、まず驚かされる。6点式シートベルトを締めさせ、それなりに走らせるのに暖め準備の要るタイヤを履いている辺りは、他のA110より明らかに日常性を捨てているところだ。フルカーボンのリアエンジンフード装着のため、シフトをRに入れた時のカメラ画像以外では、後方視界はゼロ、バックミラーすら省略されている。なので、この辺りは乗る状況と頻度によって逆に好感がもてるところでもあり、A110S以上にセカンドカー志向の気は強い。
ところがいざ走り出すと、気難しいどころか、クルマの方からけしかけてくるような尖ったドライバビリティというか一体感に、思わず共犯の笑みをこぼす羽目になる。どういうことか。そもそも峠でゆっくり走ろうものなら、シャシーが速すぎてコーナーの手前で向きが変わりそうで、ステアリングを戻してもう一度、という間抜けなことになる。それなりの速度域からコーナー奥でメリハリをつけて曲がる方が、明らかに“らしい”反応をA110Rは返してくる。進入ではスキーのカービングターンのように狙ったラインに切れ込んでいって、アクセルオンでのリアのスタビリティは鋭く、GTやSよりさらに盤石だ。かくして乾いたエキゾースト音を響かせながら、A110Rは前へ前へと加速していく。
ボディごと沈み込むようなブレーキング時の安定性や、明らかにロールを抑えた姿勢変化には、空力も相当に効いているのか、レーシングカーめいた感覚が確かにある。一方でコーナリング中にギャップを拾っても横っ飛びしないような、公道ならではの不整にも足まわりをきっちり追従させる懐の深さは、さすがメーカー謹製のチューンドカー。本国ではカップカーやGT4、ラリー仕様といった純レーシングカーもあり、あくまでRは公道用の型式認可が得られる範囲で、スポーツギアとして尖らせたアウトプットを吐き出す仕様なのだ。
アルピーヌA110のディテールをチェック(画像4枚)
公道の速度域では限りなく安定しているものだから、乗り手を陶酔させるというより、まだ限界は高いところにあるからもっと飛ばせと、先述したように、けしかけてくるところがA110Rにはある。そういうヌルくないエクストリーム仕様なのに、官能性やアドレナリン発生装置であるよりは、乗り手の理性に訴えかけてくる一体感。この辺りがやはりフランス製のスポーツカーで、つき合いやすい一台に仕上がっているところなのだ。
文・南陽一浩 写真・阿部昌也、ルノー・ジャポン 編集・iconic