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20代の頃から愛用する西口さんの大スタンダード

M.E. 今回のお題はウォークオーバーのホワイトバックス。アメリカン・トラディショナルの象徴的アイテムですが、西口さんの世代だと“みんながこぞって履いていた”というものではないですよね?

西口 そうですね。私が初めてウォークオーバーを購入したのは20代のときだったのですが、当時、周りで履いている人は皆無でした(笑)。大学4回生のときにビームスでアルバイトをしていたのですが、そこでも見かけませんでしたね。

M.E. 当時は結構レアなチョイスだったというわけですね。それでも、ウォークオーバーに惹かれた理由はなんだったのでしょうか?

西口 そのころはクラシックへの興味が深まってきた時期で、ブルックス ブラザーズのポロカラー(BD)シャツやインコテックスのドレスパンツといった定番アイテムを一生懸命集めていました。とはいえステレオタイプ的な服装だけではなく、どこかに自分らしさも取り入れたスタイルを築きたいと模索していたんです。そこで選んだのがウォークオーバーだったというわけです。

M.E. なるほど。アメリカ好きな西口さんらしい感性ですね。

西口 ウールパンツなどに合わせて、イタリアン・アメリカンなムードにまとめるのが好きでしたね。履き始めて実感したのは、白スニーカーよりも上品で革靴よりも軽やかという、この靴ならではの魅力。足元で程よいリラックス感を表現したいとき、とても重宝することがわかりました。

M.E. それがまさしく、この靴の真骨頂ですよね。ところで、1980年代のウォークオーバー全盛期をリアルタイムで経験した中村達也さん(ビームス クリエイティブ ディレクター)は、「駆け出し時代の自分でも手が届きつつ、本格靴を履きこなした先輩方の前で引け目を感じさせない希少な靴のひとつだった」と述懐されています。20代の西口さんにとっても、ウォークオーバーはそんな靴でしたか?

西口 確かに、私の時代でもそんな感覚はありました。高級品ではないですけれど、誰からも“なめられない”靴とでもいいましょうか。とにかく、唯一無二の価値があります。

M.E. そんなウォークオーバーを現在の視点から見て、改めて魅力的だなと感じる点はどこですか?

西口 まず、ラストの完成度が非常に高いことが挙げられます。オールデンのバリーラストにも通じる表情で、ノーズの短いラウンドトウでありながらボテっとして見えない。足を綺麗に見せてくれる木型ですね。内振りは弱めで、比較的まっすぐなシェイプを描いています。履き心地もすこぶる快適ですよ。今回お持ちしたのはEウィズですが、ヴィンテージにはDウィズのものも存在しますので、足の形や好みに合わせて選べるのもいいですね。

M.E. 確かに、武骨すぎず尖りすぎない独特のフォルムですね。ちなみに現在新品で手に入るウォークオーバーは、同じ米国製でもラストシェイプが結構違いますよね?

西口 そうですね。ウォークオーバーは’90年代に一度ブランドが消滅し、しばらく後にイタリアの資本下で復活を遂げましたが、そのタイミングで大きくラストが変わりました。そういうわけで、ヴィンテージのウォークオーバーには独自の造形美があるのです。それから、当時のものはアッパーの素材も貴重です。

M.E. ホワイトバックスという名前の由来になったヌバック素材ですね。

西口 そのとおりです。ホワイトバックスを手がける靴ブランドはいくつかありますが、現在はスエードを用いるのが一般的で、本来の素材であるヌバックのホワイトバックスはほとんど見かけなくなりました。

M.E. 確かにそうですね。ヴィンテージで探すにしても、汚れが目立ちやすい素材ゆえ状態のいいものを見つけるのが難しそうです。

夏ならリゾートムードで着こなしてもサマになる

西口 根気よく探す必要がありますね。高級靴でないだけに、ラフに履き潰されたものも少なくありません。

M.E. 綺麗なものに出会えたら幸運というわけですね。ちなみに、状態を検分する際に気をつけるべきポイントはほかにありますか?

西口 先ほど申し上げたように、かつてウォークオーバーは“履き潰す靴”だったため、ソールを交換することはほぼなかったようです。それゆえに底が摩耗しているものがしばしば見られます。ただこれに関しては、ソール交換で美観を蘇らせることも可能ですね。ほかに注意すべきは、コバ周りの汚れでしょうか。ホワイトバックスのお手入れに、アッパーが黒ずんできたら白いチョークをかけて綺麗にするというものがあります。ただ、これを頻繁に行うとチョークの粉がアッパーとソールの隙間に入り込んでしまい、白い汚れとなって残ってしまうのです。

M.E. 意外と見落としやすいポイントですね。それでは少し話題を変えて、今どきに履きこなすためのポイントについてもお伺いできますか?

西口 ウールパンツでもコットンパンツでもいいのですが、ピタピタすぎず適度なゆとりのあるシルエットのものを合わせたいところですね。アイビースタイルの定番ですので、昨今人気のフレンチトラッド的にまとめてもいいですし、今の季節ならリゾートムードを取り入れてみても格好いいと思います。それから余談になりますが、ホワイトバックスの靴紐はオーバーラップ(アイレットの上から靴紐を入れ、交差させるように通していく結び方)で通すのがセオリー。パラレルやシングルのようなドレス靴用の通し方はしないのが普通ですね。

M.E. カジュアルな位置付けのアメリカンシューズなので、オーバーラップで通すのがスタンダードというわけですね。ところでホワイトバックスというと春夏のイメージが強いですが、秋冬スタイルに合わせるのはNGなのでしょうか?

西口 必ずしも春夏限定とは限りません。’80年代フレンチアイビーブームの際には、秋冬にタータンチェックのトラウザーズと合わせる着こなしも定番だったそうですよ。

M.E. なるほど勉強になります。白い革靴ということで一見とっつきにくくも感じますが、実はとても便利なアイテムなんですね。

西口 そのとおりです。いまや状態のいいヴィンテージはなかなか見つからない状況だけに、大切に愛用していきたい名品ですね。

<p><b>実は綺麗な縫製</b><br />
「米国靴は質実剛健さが魅力である一方、大味な縫製が多いのも事実。しかしウォークオーバーのそれは乱れが少なく綺麗な印象です。目立ちやすい白糸だけに嬉しいポイントですね」</p>

実は綺麗な縫製
「米国靴は質実剛健さが魅力である一方、大味な縫製が多いのも事実。しかしウォークオーバーのそれは乱れが少なく綺麗な印象です。目立ちやすい白糸だけに嬉しいポイントですね」

<p><b>年代によって異なるソール</b><br />
「ウォークオーバーといえばブリックソールですが、実は年代によって微妙に違いがあります。’80年代のものは底がフラットなのですが、’90年代製のこちらは溝が切ってあるのが特徴」</p>

年代によって異なるソール
「ウォークオーバーといえばブリックソールですが、実は年代によって微妙に違いがあります。’80年代のものは底がフラットなのですが、’90年代製のこちらは溝が切ってあるのが特徴」

<p><b>いまや希少なヌバック製</b><br />
「革の銀面(表皮)を起毛加工して作るヌバックは、スエードに比べて毛足が短く非常に滑らかな手触りが特徴。現在製造されているホワイトバックスではまず採用されないアッパーです」</p>

いまや希少なヌバック製
「革の銀面(表皮)を起毛加工して作るヌバックは、スエードに比べて毛足が短く非常に滑らかな手触りが特徴。現在製造されているホワイトバックスではまず採用されないアッパーです」

<p><b>さりげない本格感が薫る小物使い</b><br />
手巻きムーブメントを搭載したミリタリーウォッチは英国製のタイメックス、右手のリングはともにロンドンのファインジュエラー、バニーのもの。アメリカンスタイルを基調としつつ、本格にこだわった手元が印象的だ。</p>

さりげない本格感が薫る小物使い
手巻きムーブメントを搭載したミリタリーウォッチは英国製のタイメックス、右手のリングはともにロンドンのファインジュエラー、バニーのもの。アメリカンスタイルを基調としつつ、本格にこだわった手元が印象的だ。

<p><b>太すぎず細すぎずのストレートパンツ</b><br />
ホワイトバックスを今どきに履きこなすなら、過度なタイトフィットパンツは禁物。西口さんは太すぎず細すぎずのストレートパンツを選ぶことで、上品さと今どきのリラックス感を両立させている。裾はひと折りして軽快に。</p>

太すぎず細すぎずのストレートパンツ
ホワイトバックスを今どきに履きこなすなら、過度なタイトフィットパンツは禁物。西口さんは太すぎず細すぎずのストレートパンツを選ぶことで、上品さと今どきのリラックス感を両立させている。裾はひと折りして軽快に。

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