右足に自制心がある限り、スタンダードモデルと変わらぬ従順さ
その昔、特に997以前ではカレラとターボとではそのアピアランスの迫力に雲泥の差があったものだが、最近はそうでもない。最新の992シリーズは、たとえベーシックな911カレラであってもワイドボディをまとっていたから、真打ちのターボがやってきても見た目に圧倒されることだけはないだろう、そう高をくくっていた。
予想に反して、圧倒されてしまった。もちろん凄まじいスペックの持ち主であるという前知識も少なからず影響したのだろうが、さらに広げられたリアフェンダーからは“本物のターボ”感がまざまざと発せられており、まるで有り余るエネルギーを抑え込むのに必死という様相でさえある。これはさすがに凄そうだ。心してドライブしなければ。そう肝に銘じて乗り出してみれば、今度はそのあっけないまでの扱いやすさに拍子抜けしてしまった。
右足に自制心があるとクルマが理解している限りにおいて、最新のターボはスタンダードモデルと変わらぬ従順さでドライバーに奉仕する。過激なターボの存在を感じさせない、しつけの行き届いたエンジン性能である。また、アシのセットを固めない限り、その乗り心地は911の範疇にちゃんと収まっていて、硬い心地でドライバーの気持ちを不必要に昂らせるということもない。サウンドにしてもそうだ。フラット6の奏でる特徴的なノイズとたなびくエグゾーストノートははっきりと抑え気味で、高性能をひけらかす類の音質やボリュームではなかった。要するに普段乗りではまるで911である。
高速道路でも、911カレラ4Sのごとく良くできたグランドツーリングカーに徹した。8速固定で踏み込んでもターボエンジンは柔軟に反応し、実に滑らかな追い越しをかけることもできた。ドライブモードを激しい方に変えようなどという気は、京都への500キロを移動中、ついぞ一度たりとも起こらなかったのである。