手抜きや背伸びをしない。スモールカーはかくあるべし
ドアを開けて運転席に乗り込むと、ダッシュボードからシート、コンソールまで、固いプラスチックやキンキンした線が目立たない。平たくいえば乗り込んだ時のお迎え感にシャビーさが一切ないながら、豪華というのも違う。フランス車は内装にこだわる傾向が強いが、事務的でなくスポーティ過ぎず、従来のスモールハッチバックのレベルを大きく超えた質感だ。
空間的にも物理的にもCセグよりも限られるBセグでは、前席の快適度が優先され、荷室容量も小さくなりやすい。だが新しいルーテシアの後席は先代より明らかに足元スペースが広くなった。それでいてトランク容量も後席背面を倒さずに391リッターを確保するなど、空間パッケージングの妙も光る。
ところが最上のサプライズは、走りにある。TCe130と呼ばれる1.3リッターターボは131ps/240Nmという、大きさの割にはかなりの強心臓。周りにハイブリッドやEVなど電気モーターの増えた近頃の交通の流れの中でも、出足でまったく劣らない。1200kgという車重の軽さの成せる技だ。
それでいて、街中を流す程度の速度から高速道路での巡航まで、Bセグ離れした剛性感と包まれ感の、重厚な走りをする。段差越えのような局面でも、ボディや内装の軋み音は一切なく、ステアリングはひと言でいって誠実。ミズスマシかゴーカートかといったクイックさではなく、一瞬のタメを伴った正確さだ。足まわりは昔のフランス車のようなたっぷり目のロールではないが、神経質ではない鷹揚なしなやかさで、ドライバーの操舵を受け止めてから傾いてロールして、ノーズがコーナーに対して切れ込んでいく感覚。この安心感がルノーらしさでもある。
実際、同セグメントのライバル車種ではなく、上のクラスの快適性や動的質感をベンチマークしてきたことが、歴代ルーテシアの強味でもある。それこそが、小さいから肝心な部分で手抜きしたりコスメティックな部分で背伸びするでなく、スモールカーかくあるべしの矜持といえる。そこに加え、とくに内装に、フランス的なしっとりタッチの生活観が反映されている。中間グレードで250万円台という価格を含め、真剣に検討する価値のある生活車といえる。
文/南陽一浩 写真/ルノー・ジャポン 編集/iconic