オフロードを優先したスタイルと走り
背高なスタイルでいわゆるずんぐりむっくりテイストは、のんびり行こうよといわんばかりの緩さを感じさせるものだが、その走りもまさにそんなフィーリングで、オンロードではちょっと緩過ぎないか?と感じるほどだった。
パッケージング&インテリアデザインもオフロードにおける視認性を最優先にしたもので、ルーフにかけてガラス面を採用したことも手伝ってキャビンに、当時SUVに強く求められていた開放感を提供するなど、居住性はすこぶる快適。このコンセプトは、モデルチェンジを繰り返しながら、先代モデルとなるディスカバリー4にまで引き継がれてきた。
ところが、最新モデルのディスカバリー5は、スポーティさをダイレクトに表現したモデルとなり、まさにかつてのディスカバリーに似ても似つかぬスタイルへと変貌を遂げた。それは、イマドキのSUVに求められているスポーティテイストを安易に採り入れたのではなく、自動車メーカーの再編成たる激動に巻き込まれた結果、たどり着いた境地がもたらしたテイスト、と、表現することができると思う。
ディスカバリーはどうしてこのスタイルにたどり着いたのか……。ランドローバーの変遷を振り返ってみよう。ご存じのとおり、ランドローバーブランドは、94年にはBMW傘下へと収まったかと思いきや、00年にはフォードへ、そして、08年になると現在のタタ・モーターズへと、目まぐるしく異なるグループ会社に移ってきた。もちろん、そのたびに、ランドローバーのSUV戦略は翻弄されたが、いずれのグループ内にあってもプレミアムたる存在価値をもたらすブランドとしてどうあるべきかといった誇りが崩されることはなかった。
実際、BMWが手放したのは、BMWブランドとのポジショニング分けが難しかった事実もある(同時に手に入れていたMINIだけ欲しかったという話もある)し、フォードはリーマンショックによる影響があって手放さざるを得なかった、だけのこと。
大きな転換点であり、ランドローバーブランドが一気にプレミアム感を高めたのは、タタ・モーターズ傘下となってから2011年にリリースしたランドローバー・イヴォークの存在が大きい。ゆとりを感じさせるデザインを特徴としてきたランドローバーテイストを、ドアパネル高にボリュームを与え、ウインドウ高を少なくするというプロポーションはひとつの流行りではあったが、躊躇することなく思い切りスポーティへと振ったスタンスが高く評価され、さらにこのテイストをスポーツという派生モデルを通じてランドローバーにも展開。
やがて、ランドローバーファンの目を徐々に馴染ませ、レンジローバー、そしてディスカバリーでもこのテイストを上手く溶け込ませ、現在のランドローバーラインナップを作り上げた。ラインナップを並べてみると分かるが、デザインはもちろん、乗り味から質感に至るまで、新世代ランドローバーを名乗るに相応しいものとなっており、ブランドとしてのメッセージを強く表現していることが分かる。
ただし、それ以前、以後で明確な線引きがされており、デザインだけではなく、乗り味まで含めて、失ってしまったテイストがあるのもまた事実だ。