熟成を重ねた、ラグジュアリィを語れる現行モデル

グランドチェロキーのライフサイクルはここまで約5年だったが、2010年に登場した4世代目(現行型)は、最長となる10年を超えるモデルとして、現在も販売が続けられている。その事情はご存じのとおり、クライスラーブランドが投資会社であるサーベラスへ売却され、その後、フィアットグループ傘下に入るといった激動に巻き込まれたため。しかし、グランドチェロキーにとってそれは悪いことばかりではなく、今振り返るとプラスに働いた事柄が多くあったとも言える。

そのひとつが、メルセデス・ベンツ Mクラスとプラットフォームを共用し、グランドチェロキーの立場から言えば、かつてないほどのアッパークラス感を手に入れられたことだ。スタンダードとなるV6エンジンはクライスラーオリジナルだが、アッパークラスをターゲットとしコストがかけられたこともあって、そのフィーリングは十分にラグジュアリィを語れるものだった。
型遅れではあったがメルセデス・ベンツに広く採用されていた5速ATを組み合わせた(当時のMクラスは7速ATだった)ことで、ジェントルなフィールも手に入れていた。オフロード走破性は、車高調整機能、トラクションコントロールといった制御系に任せ、オンロードにおける快適性や操縦性を追求するために4輪独立懸架式サスペンションを採用、これもラグジュアリィを語る性能に欠かせないものであった。
ちなみに、本国ではレギュラーモデルでもV8エンジンをラインナップしているが、日本仕様は上級グレードであるリミテッドでもこのV6に統一。先代同様にサーキットパフォーマンスを誇るSRT8(本国ではSRT)に専用チューンを施したV8ユニットを搭載することで、アメリカ車の骨頂であった大排気量主義を強くアピールしている。


現行のライフサイクルがグランドチェロキーとしては異例であるが、当初は、ここまで引っ張ることは想定されていなかった。
マイナーチェンジはフェイスリフトを伴い2014年モデルとして発表され、フルモデルチェンジを数年後に予感させたが、2014年に立ち上がったフィアット・クライスラー・オートモビルズ(FCA)はフルモデルチェンジを先延ばしにすることを幾度となく発表。細かなフェイスリフトを続けて現在に至っており、来年こそ、来年こそという期待は毎年のように外され、揺るぎないと言われてきた2021年モデルでのフルモデルチェンジも、現行のまま販売を継続することがアナウンスされた。
さらに、プラットフォームを共用するグランドワゴニアが先にお披露目されたこともあり、次期型となる5世代目グランドチェロキーは、2022年モデルとして発表されることがほぼ確定となったとも言える。

結果、10年を超えるライフサイクルとなった現行型グランドチェロキー。長きにわたって支持されてきたのは、ブランド性への信頼感もあるが、ラグジュアリィつまり十二分とも言える質感をメルセデス・ベンツ Mクラスとのプラットフォーム共用により手に入れたこと。さらに日本においては、ラレードであれば400万円を切るプライスを一時期とはいえ設定してリーズナブル感にまで訴えたこと、などが挙げられる。
過去、グランドチェロキーユーザーだった筆者からすると、それらの魅力は実にうらやましいものだらけだった。何よりもひとりのジープファンとして、Mクラスとの共用を強いられた(と勝手に思っている)ことは、旧態依然にこだわり、そこから脱却できずにいたジープだけでは成し得なかった英断に繋がり、そして、ジープブランドの可能性を大きく広げたものである、とプラスに捉えている。


さて、次期型が日本に導入されるまであと少し時間が掛かるが、果たして、現行型は買いなのか、という疑問が残る。実際、その乗り味は、ステアリングフィールにしても、トラクションコントロールといったシャシー制御にしても、10年分とはいかなくても、世代の古さを感じさせてしまうもの。
しかし、先に述べたように熟成による完成度は高く、何よりも、グランドワゴニアコンセプトを見て誰しもが感じたように、次期型グランドチェロキーの販売価格は大幅に上昇することが予想される。そう考えると、新型がデビューしても、旧型となった現行型は値上がりはせずとも、しばらくは高値で安定する、つまり、言いすぎかもしれないが、ラングラーと似た状況が生まれるのではないか、そう捉えている。
文/吉田直志 写真/FCAジャパン 編集/iconic