「けっこうアバウトな運転をしていても、狙ったとおりのラインをズバッと(しかも軽やかに)走れるクルマ」というのは、もちろん素晴らしい。だがそれは、考えてみれば「誰に対しても(とりあえずは)親切に接してくれる女子」のようなものだ。それはそれで素晴らしいわけだが、どこかに「つまらなさ」のようなものは残る。
だが、1世代古い車台を使っているがゆえに「誰に対しても常に超絶フレンドリー」とうわけではないV40は、なんというか、「付き合い甲斐のある存在」だ。
さまざまな工夫を重ねながら、徐々にそのスイートスポットを探っていくという行為は、端的に言って楽しい。それは対象がクルマであっても、人間の異性であっても同性であっても、基本的には同じことだ。人間にとっては「探求」こそが最大の娯楽なのだ。
とはいえ、さらに古い「セミクラシック」とも言える世代のクルマになると、探求のしがいはより一層あるものの、その他部分にさまざまな問題点というか、少々やっかいな部分も生じてくるものだ。
それは例えば「ACCが付いていない」という些末なことから、「故障が多くて困る」というシビアなことまで、さまざまであろう。
V40シリーズの絶妙なポジション
しかしボルボV40およびV40クロスカントリーの場合は、ACCなど最新世代のさまざまなテクノロジーが十分に投入されていながら、同時に往年のボルボっぽさ――つまりちょっとダルだけど、その分だけ妙に安心できるという類の味わい――が残っているという意味で、貴重な存在なのだ。ありそうで、実はほとんどない選択肢なのだ。
などということを独りでブツブツ言いながら考えていると、向こうのほうでカメラマン氏がV40クロスカントリーの撮影を、今まさに終えようとしている。
夕刻の斜光のなかで改めてV40クロスカントリーを眺める。するとこのクルマの美点は「挙動におけるモダンとクラシックの融合」だけでなく、「デザインの面でもその融合が果たされている」ということであることに気づく。

最新世代のボルボの、あまりにイケメンなフェイスももちろん素敵だ。だが十分イケメンでありながら、どこか「素朴さ」のような部分も残しているV40系のフェイスおよびフォルムも、これはこれで今や貴重だ。現実的なことを言えば「全幅1800mm」というのも今や希少であるし。
V40およびV40クロスカントリーはとりあえず「絶版」になる。後継モデルは、今のところ予定されていないという。
だが、各地のディーラーには少数ながらまだ新車の在庫があり、認定中古車もある。
「現代的な良さ」と「クラシック系ボルボの良さ」とが絶妙に共存しているV40系。それは「Last(最後)」ではあることは間違いないが、決して「Least(最小)」ではなかった。
もしもあなたが、キラキラし過ぎている現代的プロダクツにはさほど興味がない男衆であるならば、今から「積極的に」ボルボV40を選んでみる価値はある。
文/伊達軍曹 写真/柳田由人 編集/iconic
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