M.E. フレンチトラッドは今、最も注目されているトレンドのひとつですが、これが春夏も続くのでしょうか?
鴨志田 ’80年代に流行ったフレンチトラッドそのものというより、そのマインドを取り入れるという意味でなら、今後も続くでしょう。先ほど申し上げたエフォートレスなマインドで着こなすと、それが結果的にフレンチと重なるのです。たとえばスーツにタートルネックニットを合わせて抜け感を加えるというのもフレンチ的ですね。
中村 フレンチトラッドというのは、“フランス人の目線で解釈した英米トラッド”のことを指します。ですから、要は昨今主流になっているミックススタイルのひとつなのです。“頑張ってる”感満載なコテコテのイタリアスタイルが古くなってきていて、イタリアブランドのスーツやジャケットもより新しい感覚で着こなそう、というのがこれからの機運になっていますね。
M.E. なるほど。こちらのグレースーツのスタイリングも、その一例といえるものでしょうか?
中村 そうですね。グレーのチェックスーツに黒×ネイビーのストライプタイを合わせて、モノトーンベースに仕上げた装いです。黒系のネクタイはクラシック好きな方にとって敷居が高く感じられるかもしれませんが、黒無地ではなくこのような黒がらみの柄なら取り入れやすいと思います。足元も黒のシングルモンクでミニマルにまとめつつ、硬くなりすぎないようスエード素材をチョイス。このように、黒の上手な取り入れ方が旬な装いのカギですね。
Key Word 05
黒の上手な取り入れ方が旬な装いのカギ

M.E. クラシック好きにとっては黒=モードというイメージがあって、少々敷居が高く感じてしまいがちですが、素材や柄に少し気をつけるだけで自然に取り入れられるんですね。鴨志田さんには2020年的な装いにおすすめな靴として、ベルジャンシューズを挙げていただきましたが……。
鴨志田 これもシルクスカーフと同じで、より肩の力を抜いた、エフォートレスなスーツスタイルを築く小物として選びました。スーツにローファーを合わせてドレスダウンするのが長らく定番になっていますが、ローファーよりイージーなベルジャンシューズで、さらに抜け感のあるスタイリングになるというわけです。大人としては、ドレスダウンしてもエレガンスを保ちたいですよね。そんなときにとても重宝するアイテムですよ。
Key Word 06
ローファーよりイージーなベルジャンシューズ

M.E. 黒がらみのネクタイもベルジャンシューズも、今までのクラシックなセオリーからするとスーツには合わせないものとされていましたよね。
中村 現在、常識とされているクラシックのセオリーは、’90年代後半のイタリアンクラシックブームの際に固まったものが基本になっています。ですから、決して絶対的な洋服のルールではありませんし、当時の基準でアリナシを判断するのが今や古くなってきているのです。
鴨志田 そうですね。クラシックやモードといったカテゴリのボーダーは、今後どんどんフリーになっていくでしょう。スーツにベルジャンシューズはクラシックじゃない、なんていう考えはナンセンスになってきますし、イタリアンやアメリカンといったスタイルの垣根もなくなっていくはず。それに代わって装いの基盤になってくるのは、各人のパーソナリティだと思いますね。
中村 言い換えれば、スーツスタイルのステレオタイプが今後消滅し、決まり切ったセオリーから解放されていくともいえると思います。
鴨志田 それは大いに歓迎すべきことですね。本来、スーツというのは社会性を表す服ですし、自分の名刺代わりになる自己表現の手段でもある。ですから、大人の装いとしてもっと広く活用されるべきだと考えています。
中村 スーツは着るだけで“大人”を表現できる、とても便利な服。固定観念から解放されたスーツは、今後もっと魅力的になっていくはずですよ。
※表示価格は税抜き [MEN’S EX 2019年12月号の記事を再構成](スタッフクレジットは本誌に記載)