工場に行って分かった! サンタニエッロの生地はこうして生まれる

サレルノの市街地にある工場では、今、来秋冬シーズンの生産が行われている。次のコレクションを作るときは、過去の染めのアーカイブが重要になる。試作段階で納得できなかったサンプルも含め、大きなテーブルの上に色ごとに整理して並べ、それらを眺めながらアントニオ氏が服に載ったときの色や表情を想定しながらシーズンに最適な色を考えていく。布を切る、縫うという通常工程に加え、「生地の色みや質感を決める」というのは、サンタニエッロにとって非常に重要なことだと、アントニオ氏は語る。

「私は、父がジャケット職人、母がパンツ職人というサルトリアの家で育ちました。なので、家、というよりむしろ”工房で育った”といっても過言ではありません。小さい頃から両親のモノ作りを見てきたので、1989年に工場に入り、自身もモノ作りの道に入るのは自然なことでした。父や母が築いてきたサレルノの伝統的な服作りに、自分が見て、感じて、味わった色使いを加えていきたいと思うようになりました。そうして、1992年に、サンタニエッロのファーストコレクションを作ったのです。それからずっと、もととなる原材料の糸や生地に染めや洗いを加え、また素材の混率や縮率によってどのように変化が生じるか? それによって製品となるジャケットやパンツはどのような味が生まれるか? ——というリサーチを重ねてきました。もちろん、思い描いた色や質感が出ないことも多々あります。しかし、そうやってトライ&エラーを繰り返して蓄積された生地のレシピ集が、サンタニエッロの服作りの大きな強みとなっているのです」

アントニオ氏が研究を重ねてきた膨大なファブリックデータは、工場の「資料室」と呼ばれる一角に、シーズンごとに丁寧にファイリングされている。それらのレシピをファイルや頭の中の記憶から引っ張り出して、「そうだ、この年に、こんな色や質感の生地を使ったな。じゃあ今年は、それを少しアレンジしてこんな生地感にしてみよう!」というふうに、無限にアレンジを加えていけるというわけだ。