
バーゼル取材 DAY4
セイコー、シチズン、カシオの新作を見る
バーゼルワールドに出展する、日本ブランドの時計は今年も、様々なモデルに日本古来の伝統工芸に技術の粋を凝らした、特別なモデルを投入していた。
セイコー クレドールからは、「叡智」シリーズの十周年を記念した、手巻きスプリングドライブ搭載の18Kピンクゴールドケースモデルを発表。
この時計の特徴の最たるものは、インデックスのバーを手描きにした磁器製ダイアルだろう。白い磁器文字盤の上に、極細の面相筆によって手描きされたインデックスを焼成したというのだが、そのよどみなく引かれた線には、驚嘆するほかはない。
またシースルーバックから見えるムーブメントも、金色のシャトンに囲まれた穴石や、青焼きされたビスなどが、カラフルに構成されていて素敵だ。


カンパノラからも、伝統工芸の漆を用いて時の情景を描いた特別ピースがお目見えした。シチズン・グループの一画を担うようになった、ラ・ジュー・ペレ社の自動巻きムーブメントを搭載した「千夜燈」(ちよのとぼし)というモデルは、漆黒の背景に金粉と螺鈿での技法を用い、宇宙から眺めた地上の輝きを描いた、というもの。
またミニッツ・リピーター機構を持つクォーツムーブメントのモデルは、天の川を螺鈿で、月を白蝶貝で表現し、水面に星や月明かりがしたたれ落ち、波紋が広がる様を表現したというもでるは「?雫」(ほしのしずく)と命名された。
そしてカシオからは、ここ数年G-SHOCKシリーズの最高峰モデルとして繰り広げている鎚起(ついき)シリーズとして、日本刀の拵えの一つである鉄鐔(てつつば)をモチーフとしたモデルが発表されて、大きな話題となっていた。
鎚起とは鎚=ツチと鏨=タガネを用いて、金属の表面を打ち鳴らし、模様などをつける工芸技法のひとつで、現代は鎚起銅器の生活道具を造る技法として残り、銅鍋、そして薬缶やマグなどが造られているが、昔は刀剣の鐔などの、鉄を細工する技術でもあった。
カシオでは今年その鉄鍔を思わせるベゼルを持つ特別モデル、MRG-G2000HAを限定350ピース製作した。伝統工芸に見られる素銅(すあか)をイメージした色を用い、鎚起師の三代目・淺野美芳氏の監修による「荒らし鎚目」という技法で作られたこの鉄鐔ベゼルは、独特の輝きと深みを帯びている。

Profile
松山 猛 Takeshi Matsuyama
1946年京都生まれ。作家、作詞家、編集者。MEN’S EX本誌創刊以前の1980年代からスイス機械式時計のもの作りに注目し、取材、評論を続ける。バーゼル101年の歴史の3割を実際に取材してきたジャーナリストはそうはいない。
撮影/岸田克法、小澤達也 文/松山 猛