ラグジュアリーこそ、本質主義でまといたい
世界に冠たるラグジュアリーブランド。そのまばゆいばかりの輝きに、私たちはいつも魅せられてきた。しかし、絢爛たる煌めきの根源にあるものに想いを致すことはあるだろうか。 そこには、メゾンが大切に守り抜いてきた技がある。果てしない素材への探究心がある。着る者の魂に響く哲学がある。クワイエットラグジュアリー、ミニマルラグジュアリーといった言葉がモードの世界を席巻して数年が経つ。それはまさに、世界がラグジュアリーの本質に注目していることの証明ではないだろうか。今こそ、新しい視点でラグジュアリーの価値を考えてみたい。
Brunello Cucinelli(ブルネロ クチネリ)

その装いは、哲学から始まる
ブルネロ・クチネリ氏は書物を愛し、なかでも哲学の古典を座右の書としているという。今季のテーマは「アナムネーシス」。プラトンが説いた概念で、“人間は生まれながら魂の奥底で真理を知っていて、私たちはそれを学びによって思い出す”という意味である。ラグジュアリーの本質もまた、アナムネーシスによって出会うことができるものではないだろうか。見るからに柔和なアイボリーのコーデュロイスーツ。極めて繊細なコットンを用いることで、まるでカシミヤのような肌触りを叶えている。その心地よさに恍惚としながら袖を通し、姿見の前に立つ。まるで第二の肌のごとく身体に沿った佇まいの美しさに息を呑むだろう。なぜ、人は初めて出会った美しいものを、直感で美しいと感じられるのか。それは、魂の記憶に刻まれた美が思い出されるからではなかろうか。ブルネロ クチネリの服、それは身にまとう哲学であり、着る学びなのである。
[MEN’S EX Autumn 2025の記事を再構成](スタッフクレジットは本誌に記載)
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