[ブランド学/3]
未来へ受け継ぐ“繊維の宝石”
ロロ・ピアーナのカシミア物語
結局のところ、究極のクオリティを生むのは情熱と愛情だ。世界最高峰と讃えられるロロ・ピアーナのカシミア。その背景には、自然と人間への讃歌が高らかに響いている。
大自然の恵みを“宝石”にするのは人の手、そして真心
自然への敬意なしに極上のカシミアは生まれない
苛烈な経済競争に翻弄されて、私たちはカシミアがいかに貴重なものであるかを忘れてはいないだろうか? それは本来、自然がもたらす恵みのなかでも極上に数えられるべきものだ。カシミアの王者と称されるロロ・ピアーナは、その価値を最も深く理解する者といえよう。
同社が中国を始めとする産地のブリーダーと協働を始めたのは’80年代。その本質を見抜く慧眼は誰よりも鋭かった。至高のカシミアを生み出す鍵は、人と自然、そして人間と人間の共生であると瞬時に悟ったのだ。カシミアを大量に得ようとすれば、それを生み出すヤギの飼育数を増やせばいい。また、原毛の選別や洗浄といった工程を簡略化すれば、“カシミア100%”というラベルは簡単に貼ることができよう。しかし、いたづらにヤギの数を増やせば大地は疲弊するし、過剰な効率化はヤギを育てる遊牧民たちから自然の営みを奪っていく。カシミアは生命の神秘が生んだ宝石であるがゆえに、そこへ強者の論理を持ち込まないことが何よりの成長戦略である。それがロロ・ピアーナの結論だった。
以来同社は、最高品質のカシミア産地として知られる内モンゴルの遊牧民を手厚くサポート。サプライチェーンの強靱化にも尽力し、決して量を求めなかった。
一方、カシミアのクオリティ向上を図る目的で「ロロ・ピアーナ・カシミア・オブ・ザ・イヤー賞」を設立。2024年には12.8μという世界新記録の繊細さをもつカシミアを生み出した。それは結果としてヤギを育てる遊牧民たちに自信と誇りを与え、またヤギにとってはよりよい生育環境をもたらしたのである。
ミクロンのレベルにまで宿るサヴォアフェール
ヤギからカシミアを採取するチャンスは年に一度。厳しい冬を越えて春を迎え、冬毛が自然に抜け落ちる季節である。一頭から採れるカシミアの量はわずか数百グラム。セーター1枚を編むのにも足りない量だ。そのうえロロ・ピアーナは、不純物を丹念に取り除いたうえで繊維が細く、長いものだけを厳選する。これには気の遠くなるような手間ひまに加え、職人の卓越した技術力も不可欠。
ダイヤモンドの原石を寸分違わぬ58面体に磨き上げて煌めきを引き出す、ブリリアントカットのサヴォアフェールにも似た仕事ぶりだ。大自然が生んだ恵みはかくして、“繊維の宝石”となるのである。
世界最高峰と名高いロロ・ピアーナのカシミア。未体験の人は、ぜひ一度袖を通してみてほしい。そこに心を満たす温もりが満ち満ちているのを感じるはずだ。それは自然への尊敬と慈愛、人間の弛まぬ研鑽と真心が生み出した温度である。ロロ・ピアーナは、そんな美しき温もりを未来へ伝える語り部なのだ。
[MEN’S EX Autumn 2025の記事を再構成](スタッフクレジットは本誌に記載)
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