
「イタリアワインはファインワインの世界では後発。アメリカワインにも後れを取ってきました。長期熟成に耐えうるファインワインを造るためには、大きな投資が必要なうえに、ブドウの収量を低くする必要があります。そして、何よりも大切なのは伝統を重んじながらも、慣例を破ることを恐れない姿勢です」
そう語るのはイタリアを代表するワイン「マッセート」を手掛けるマルケージ・フレスコバルディ社のランベルト・フレスコバルディ社長。「マッセート」が生まれるのはイタリアのトスカーナ州の沿岸部にある小さな村、ボルゲリ。もともとこの地では、ブドウは育たないといわれてきた。ブドウ栽培の前例はなかったにもかかわらず、1980年、同社は手つかずの荒野に最初のブドウを植える決断をした。そして、周囲の予想に反し、かの地でうまれた「マッセート」は、初ヴィンテージのリリースより、世界中の著名なワイン評論家から高い評価を受けてきたのだ。

「マッセート」のブドウが育つのは地中の深部まで入り組んだ強靭で特異な土壌、岩のように硬い青色粘土層だ。それらは通称「マッシ(イタリア語で巨大な岩)」と呼ばれ、ワインの名はそこに由来する。

そんな「マッセート」の最新ヴィンテージの2021年がリリースとなった。2021年ヴィンテージについて、フレスコバルディ社長は、以下のように語る。
「豊かで力強い天候となった2021年ヴィンテージに感謝しています。マッセートでは、人間に出来ることとして、畑を小さい区画に分割し、細やかに手を入れてきました。これに加え、自然の偉大な力、すなわち、豊かな陽光とティレニア海の潮風がなければ、2021年の素晴らしいヴィンテージにはなり得なかったでしょう」と。
「マッセート」のチームは日々、テロワールを注意深く観察することで、忍耐強く、正確に、細部までこだわってブドウを栽培しているという。「ヴィンテージを重ねるごとに、ブドウ畑から醸造所まで、テロワールの素晴らしい特徴を出そうとマッセートのチームは熱い気持ちで取り組んでいます。マッセートの畑では、ブドウは絶えず風雨と戦い、極限状態にさらされています。こんな場所では、ブドウにこれ以上のストレスがかからないよう、人間の介入は最小限にするべきで、細心の注意で臨まねばなりません。凝縮感が非常に高いブドウに必要なのは高度な醸造テクノロジーではなく、自然でシンプルな作業です」

また、生産管理マネージャーのマルコ・バルシメッリさんは2021年ヴィンテージについて以下のコメントを残す。
「畑は2021年ヴィンテージの特徴を忠実に表現しました。マッセートの個性である美しさと完璧なバランスを見せただけでなく、春の雨を十分に溜め込み、晴天が続いて乾燥した長く厳しい夏をしっかりと乗り切ったのです。今年も青色粘土層により、ブドウは過度のウォーター・ストレスを回避でき、凝縮感のある果実が育ち、高品質のブドウを収穫できました。マッセート2021は、世界を驚かせるワインになるでしょう。試飲を重ねるたびに、豊かな存在感と、引き締まったフィニッシュを見せており、2021年ヴィンテージの特徴を明確に表現しています」

もう1本、同ワイナリーには注目すべきワインがある。「マッセート」のセカンドワインであるマッセティーノだ。「マッセート」造りの過程では、最高の品質を保証するために極めて厳格なブドウの選果がなされてきた。一方で、近年ではブドウの樹の植え替えが進み、メルローに加えてカベルネ・フランの区画も作られるようになった。2017年からはそれらのワインも「マッセート」に採用されている。
だが、いくつかの区画は「マッセート」用としてはまだ十分な要素を満たしていないものもあった。そこで、それらの区画から取れたブドウを使ってセカンドワインである「マッセティーノ」が誕生したのだ。「マッセティーノ」の最初のヴィンテージは2017年で、2019年にリリースされた。セカンドワインとはいえ「マッセート」と同じ血統を受け継いでおり、その味わい、完成度は折り紙付きだ。


「マッセート」ではワイン造りにおいて、「畑の力を最大限に引き出すこと」と「人間の介在を最小限にとどめること」の2つを軸にしているという。「マッセート」の畑は肥沃ではなく、乾燥しており、作物が勢いよく生い茂るようには見えない。そんな畑が、毎年、誰にも予測できない驚異の潜在能力を発揮し、どんなに厳しい天候でも、豊かな個性を発揮している。慣習にとらわれることなく、大自然に対して人が真摯に向き合ってきたおかげだろう。ボルゲリが生んだ奇跡の赤ワイン「マッセート」。その最新ヴィンテージをぜひご堪能あれ。