2022年に刊行された『世界一わかりやすい 腕時計のしくみ』の第2弾として、「複雑時計編」が発売となった。本書ではここ数年ブームが続いている複雑時計に絞って、その魅力的な機能や難解に動く「しくみ」を、とにかくわかりやすく解説。奥が深いさまざまな複雑機構のしくみをご紹介しよう。
ミニッツリピーターのしくみ
歯が刻まれた3つのラックが、移動しながらゴングを鳴らす

ミニッツリピーターは針が示す現在時刻を、いかにしてアワー/クォーター/ミニッツの各数に変換し、その数だけハンマーを動かすのが重要。下の図2~8は、現在時刻の読み取りからゴングを打つまでのしくみを示す。機構の主要な部品は、各時間の単位ごとのカムとラック(歯竿)。図2で同軸にあるクォーターカム【9】とミニッツカム【10】は分針を動かす歯車に取り付けられ、これら2つのカムが1周する(1時間経過)するたびに、ミニッツカム【12】が乗る12の歯をもつ12時間歯車【11】を1歯ずつ送る。ミニッツカムは12、クォーターカムは4つの段差をもつ。ミニッツカムが4つの羽根をもつ手裏剣状なのは、15分(4分の1時間)ごとに音の数が変わるから。各羽根には14の鋸歯が切られている。
機構図では省略しているが、レバーをスライドするとリピーター用の香箱が巻かれる。と同時にラックが移動して3つのカムの位置を各時間単位のラックの竿先が読み取り、それぞれの時間と同じ数の歯が移動。各ラックが順にゼンマイの力で戻る際、移動した歯の数の分だけハンマーを動かすしくみだ。またミニッツリピーターには、完全にレバーをスライドしないと作動しないオール・オア・ナッシングと呼ばれる安全装置が備わる。図9は、その機構図だ。
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アワーハンマー【1】は低音ゴング【2】を、ミニッツハンマー【3】は高音ハンマー【4】を打つ。カウンタースプリング【7】【8】でハンマーの打力は増幅。リターンスプリング【5】【6】で戻される。
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クォーターカム【9】とミニッツカム【10】は分針と連動。12時間歯車【11】は、クォーターカム【9】で1時間毎に送られる。クォーターカム【9】は15分ごと、アワーカム【12】は1時間毎の段差をもつ。【13】は12時間車【12】の規制バネ
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レバーをスライドすると、時取りツメ【15】が、アワーカム【12】の段差の位置を読み取り、時取りラック【14】を動かしてアワーラック【16】を回す。【16】の下にはリピーター用香箱が備わる。
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アワーラック【16】には12の歯が備わり、図3のしくみで時刻分の歯の数だけ、移動。ゼンマイの力で戻る際、アワーハンマーが付く引っかけ【17】を歯の数だけ動かし、ゴングを打つ。
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クォーターラック【18】は竿先【21】が読んだクォーターカム【9】の位置情報分だけ移動。香箱とつながるフュージ【20】とその歯【19】により元の位置に戻る際、外側の歯が各ハンマーの引っかけ【22】【23】を動かす。
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ミニッツラック【25】は竿先【27】でミニッツカム【10】の情報を読み、分数分移動。ミニッツラック【25】が戻る際、移動した歯数の分引っかけ【26】を動かしゴングを鳴らす。移動と戻るしくみは、図7・8で解説。
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レバーをスライドした際、ミニッツラック【25】の鋸歯から図5にあるクォーターラック【18】と接合するフック【24】が外れ、ミニッツラック【25】とクォーターラック【18】はそれぞれのカムの位置情報分だけ移動できるようになる。
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フュージ【20】で元の位置に戻るクォーターラック【18】(ともに図5)の動きでフック【24】がミニッツラック【25】の鋸歯を押し戻す。フックがかかる位置はクォーターの音の数で決まる。
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レバーのスライドで各ラックを固定するツメ【29】が回りオール・オア・ナッシング部【30】がもち上がり、フック【24】のクチバシ【28】(ともに図6)が固定してた引っかけ【17】を解放。
関連記事はこちら:超複雑機構のしくみ③ミニッツリピーターとは?
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『世界一わかりやすい 腕時計のしくみ【複雑時計編】』
定価:2,420円(税込)
発⾏・発売:株式会社世界⽂化社
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