スーパースポーツカー級のパフォーマンスを安全に楽しめる


待望のV8エンジンを積んだ新型SLを試す。街中を流していると重厚なGTクルーザーという昔ながらのイメージが先に立つ。快適なコンバーチブル。+2の4シーターとなって使い勝手そのものは増しているから、秘めた性能さえ隠しおおせれば実用車としても十分に使えそう。
V8エンジンをひとたび解放すれば、凄まじい雄叫びをあげて加速する。まさに現代のAMGらしいサウンドだ。背後からそんな音にけしかけられると、実際以上に速く走っているように思ってしまう。スペック表には0→100km/h加速3.6秒と記されていたが、その加速フィールは凄まじく、数字以上に速く感じた。
新たなアクティブサスペンションとシームレスな駆動配分を実現する4MATIC+システム、そしてクラス最高峰の動的スペックを誇るV8パワートレーンとが相まって、そのダイナミックパフォーマンスはほとんどスーパースポーツカー級だと言っていい。コーナーでは速いが安心して曲がっていける。安全なスポーツカーだ。
初採用となった後輪操舵システムは、低速度域での小回り性や高速走行における直進安定性にも効果を発揮するほか、できのいいボディ骨格とシャシー、制御の行き届いたサスペンションと相まって、実にメルセデスらしいドライビングファンを実現する。SL43よりもノーズの動きが重いのは確かだけれど、重すぎるとは思わない。重量バランスも崩れていないと思う。オープン時にそのことを特に強く感じた。
どれだけ凄まじい加速をみせてくれたとしても、速度を上げていく途中のライド感は超安定志向であり続け、恐怖心などほとんど起きてこない。コーナリング時も、高速走行域でもそうだ。スリルより安心を積極的に提供しようとする姿勢こそは“メルセデスらしさの発揮”というものだろう。
文=西川淳 写真=柳田由人 編集=iconic