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【森 万恭のライフフォト・エッセイ】#ひとつしか選べないならば……

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デザイナー/フォトグラファー【森 万恭のライフフォト・エッセイ】
気に入っている物を纏うこと、使うこと。

実は“こだわり”と言う言葉があまり好きではない。偏愛的な? マニアックな? と言うイメージが先行してしまい、なぜ? どうして? と問われても説明が難しいからだ。それよりも気に入っている……好きだ……と言ってしまった方が話が早い。気に入っている物を纏っているとワクワクし、少々自信も備わる。そして好きな器で食すれば、さらに美味しく感じ、好きな道具を使えば扱いも仕事も丁寧になる。言わば良いこと尽くめで日常も豊かになる。

ライカM2-Rとケルン マクロスイター50mm f1.9 アルティザン&アーティストのシルク組紐カメラストラップ
ライカM2-Rとケルン マクロスイター50mm f1.9、アルティザン&アーティストのシルク組紐カメラストラップ

ひとつしか選べないならば……

僕が小さい頃、そして中学生時代にかけてはまだまだメディアも乏しくテレビか冊子で情報を得るしかなかった。よって冊子では沢山の写真を見ることになり、ファッションから世界情勢に至るまで心に深く刻まれた。そして写真の黄金時代でもありフォトグラファーは僕自身の憧れでもあった。三十代後半頃、長く勤めた会社を辞めることにして一年間は何もせずに写真を勉強しようと思いニコンの一眼レフを買ったところ面白くなり、すぐにライカM2と比較的安いレンズを購入した。何もしないで写真の勉強……と考えていたが、すぐにブランドプロデュース契約の話があり、結局服作りに戻ってしまうが、それでもライカは肌身離さず仕事の合間に写真を撮った。特に海外出張の際は日本にいるよりも時間が取れたので撮影機会も多く、その頃のネガをまさに今、自宅の暗室でプリントしている。手元にはカメラ機材が徐々に増えて行くが、ある時にとんでもないレンズがあることを知る。スイス製でアルパというカメラの為のレンズで知る人ぞ知る……というものだった。それを使いたいものの、当時はアダプターと言う便利なものがなく、他社のカメラに溶接で接続する猛者も出てくるほど、素晴らしいレンズだ。

良く写るレンズは沢山ある。しかし魅力的か? となるとそこが難しい。高校野球の戦力分析図に例えると、なだらかな円形になる場合は平均値も高いが、代わりも沢山あり魅力も薄くなりがち。その点、オールドレンズは手での研磨が入る為に個体差も多く、所謂ハズレの場合もたまにはあるが、得意な部分で撮影された描写は素晴らしく、不得手な部分での撮影では逆となりそこが魅力でもある。ともあれこのレンズは落ち度はなく、仕事も素晴らしく、性格も良くて超美形と言う稀に見る内容で更に味わい深さも併せ持つ。

当時、このレンズが手元に来た際、ライカに接続する為に十万円を出費しアダプターを特注した。電源を必要としない精密な機械式カメラは調整すれば人の一生以上は軽く仕事をする。コロナ禍がきっかけになり、アナログ写真に立ち戻る決断をしたが、同じく二十年近く防湿庫で冬眠していたこのレンズを再び使い出して、ポテンシャルを殆ど活かせていなかったことがわかった。しかし僕も少しは進化しているので、今後にも期待してしまう。ひとつしか選べないならば、間違いなくこのセットを手元に残す。

それからカメラストラップだが、ナイロンテープのものはどうも……しかしレザーでも良いものがないので、二十数年前にとうとうオリジナル製品を作ってしまった。ヌメ革製で気に入ってはいたが、首から下げるよりも手首に巻いての臨戦態勢が多いのですぐにくたくたになってしまう。ところが数年前にシルクで編まれた紐状のストラップを見つけ少し興奮した。と言うのは、戦前からストラップと言えば革製であったが、日本には着物文化があり帯締めに使う正絹紐をカメラストラップに流用していた話を思い出したからだ。そしてよくぞ作ってくれましたと手元にあるすべてのライカに取り付けた。その後、矢継ぎ早に各社がナイロンザイル等を使用したものなどを製品化するが、使い心地はシルクには敵わない。手首巻きでも伸縮性があるので使い易く、首や肩掛けでも服地を傷めない。そして何より伸縮時にキュッと言うシルクの音鳴りに萌えるのだ。

【 Photo & Story 】

デザイナー/フォトグラファー 森 万恭氏

森 万恭さん
Kazuyasu Mori
東京・新宿生まれ。1977年にベイクルーズの立ち上げに参加。その後、退職するが復職後、エディフィス、エクアション パーソネルなどのブランドを手掛ける。’98年に(株)ワールドと契約しドレステリアを立ち上げ、服のデザイン、ショップの内外装設計や家具デザイン、バイイングコーディネート等を手掛ける。“最後は写真……”と決めていて2016年に契約を破棄し現在は写真家として活動する傍ら、アパレルデザイン、インテリアデザインも継続。好きな言葉は「丁寧」。ワイルドフラワーをこよなく愛す。ポケットビリヤードA級・スリークッションビリヤード4段、ヴィンテージ・ビリヤードキューのコレクター。
Instagram / @mori_photography


次回は……【#「字を書く」ということと毎日使う道具】

[MEN’S EX Autumn 2022の記事を再構成]

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