どのような走りがDSとしてあるべき姿か? を表現

というわけで俄然、どのような乗り心地か、胸を高鳴らせつつ走り始めると、またサプライズが待っていた。PSAグループのクルマとしては珍しく可変ダンパーと連動するドライブモード切替だが、「ノーマル」モードではまるでドイツ車のようにロールを抑え、ステアリングもクイック気味なのだ。これはむしろ、競合他車から移ってきたユーザー層をびっくりさせないための仕掛けという。モードを「コンフォート」にすると、DS 9は薄皮が剥がれたかのように、本来の姿を現す。明らかにサスペンションの上下ストロークが豊かになり、ゆったりとしているが芯の強い減衰が始まる。ステアリングの中立付近は穏やかに、しかし操舵時のゲインはリニアで、狭い県道でも狙ったラインをキチンとトレースできる。いうなればエレガント/スポーティなフットワークで、DS 7クロスバックよりルーフ高が低い分、明らかに動的質感が上がっており、ハイブリッドならではの静粛性を含めビロードに包まれるような乗り心地なのだ。ハイエンドに相応しい鷹揚さと、ドライバーが意のままに操れるコントロール性の高さを、DSらしい「芯の据わった柔らかさ」の中に、キチンと表現し切っている。いわば、どのような走りがDSとしてあるべき姿か? という点に、曇りも迷いもないのだ。

「E-テンス225」仕様のパワートレイン、1.6リッターターボ180ps+フロントモーター110psという組み合わせは、プジョー 508SW PHEVなどで既出のもの。ハイブリッドかつ「スポーツ」モード時にシステム総計で225ps/360Nmというピーク値も変わりない。508では中速域のパンチにやや物足りない気がしたが、DS 9との組み合わせではロングホイールベースと1839㎏と少し増した車重が、むしろ快い落ち着きとして演出されている。

E-テンス225には11.9kWhのリチウムイオンバッテリーが組み合わされ、EVモードでの最大レンジは約58kmだが、欧州ではバッテリー容量/EVとしての最大レンジを15.6㎾h/約70kmに拡大したE-テンス250ps仕様もある。加えてつい最近、プジョー508PSE(プジョースポールエンジニアード)と同じくリアに113psのモーターを備えたAWDである「E-テンス 4×4 360(ps仕様)」も追加登場している。
ところで冒頭で述べたような、今どきのフランスのシャトー住民というのは、地方の地主さんのようなカントリージェントルマン気味の富裕層だけでなく、昼間の住民としての官公庁勤めの高級官僚というパターンもある。革命で成り立った共和国の官公庁は、貴族の元城館を接収して今に至るところが多く、首相府はマティニョン宮、大統領府はエリゼ宮としばしば言い換えられる。当然、DS 9は大統領専用車の系譜にあり、今年は5年に一度のフランス大統領選が4月末に控えている。

2期目を目指すマクロン大統領だが、今のところ対立候補らが脅威になる可能性は低い。よってサルコジとオランドという直近の元大統領2人が果たせなかった、故ジャック・シラク以来の2期目当選を手にするだろう。そんな大統領が、5月1週目以降、DS 9に乗り込む姿が見られるかどうか、つまりドゴール以来のDS=大統領専用車というイメージをどう扱うか? そんなところにも注目したい。
文/南陽一浩 写真/Stellantis 編集/iconic