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モッズファッションは元祖ミックス・スタイルだった!?

M.E. 連載第8回のテーマはミリタリーコートの名作「M-51」。モッズコートの通称でも有名ですね。

西口 そうですね。フードつきのロング丈と、背中側の裾が中央で割れたフィッシュテールが特徴的です。M-51は1950年代にアメリカ軍が採用したものですが、同系統のコートとして’60年代に登場したM-65も広く知られています。ちなみにM-51の前身としてM-48というモデルも存在するのですが、こちらは生産期間が短いため、ほとんど市場に残っていません。

M.E. M-65といえばフィールドジャケットがまず思い浮かびますが、コートも名作なんですね。では、M-51とM-65の違いはどういったところにあるのでしょうか?

西口 目立つところではフードの仕様が挙げられます。M-51は身頃とフードが一体になっていますが、M-65では着脱式フードとなり、外すとスタンドカラーになります。そして機能面では、ライニングの変更が大きな特徴ですね。M-51には厚手のウールライニングが付属するのですが、M-65はより軽量なキルティングを採用しています。着心地の面では後者のほうが優れているので、私はM-51にM-65のキルティングを装着してカスタマイズしています。

M.E. ヴィンテージに詳しい方ならではの着こなしですね。参考になります。ところで、M-65ではなくM-51をヴィンテージ名作として挙げる理由はなんですか?

西口 モノとしてはどちらも甲乙つけ難い名作だと思いますし、実際私も両方所有しているのですが、M.E.読者の方におすすめするなら……という観点からM-51を選びました。その理由は、モッズカルチャーという歴史的背景をより色濃く有しているのがM-51だからです。

M.E. なるほど。現在ではM-65もモッズコートと呼ぶ傾向がありますが、1960年代のモッズたちが実際に身につけていたのはM-51ですね。細身のスーツの上にバサッと羽織って、ベスパなどのイタリアン・スクーターを乗り回して……。

西口 そういうイメージですよね。映画『さらば青春の光』などはモッズのファッションを学ぶ貴重な教材です。私が思うに、彼らの装いに対する姿勢は、どこか今のミックス・スタイルにも通じるものがあるなと。

M.E. スーツにあえてラギッドな軍モノを合わせるということですか?

西口 それもありますが、多国籍なカルチャーを自由にミックスしているという点にも注目です。彼らはイギリス人なので、スーツは地元イギリスで仕立てたものを着ていますが、そこにアメリカ軍から放出されたミリタリーコートを合わせて、イタリアのバイクを駆って出かける……という具合に、多様なテイストを掛け合わせているのです。おそらくその背景には、アメリカをはじめとする外国文化への憧れも多分にあったのでしょう。それらを既成概念に囚われず取り入れるのがクール!という気風に共感を覚えるのです。

M.E. 確かに、単一のテイストにこだわらず自由な感覚で着こなしを楽しむ今のムードと共通するところがありますね。鋭いご指摘です。

西口 昨今リバイバルしているフレンチトラッドも’80年代的ミックススタイルといえますが、実はさらに遡った’60年代にもミックススタイルが存在していた、ともいえますね。

M.E. そう聞くと、俄然モッズスタイルに親近感が湧いてきました(笑)。『さらば青春の光』の劇中ではフレッド・ペリーのポロシャツにM-51を羽織ったスタイルも有名ですが、西口さんが今、着るならどういうコーディネートが気分ですか?

クセが強そうに見えて実は幅広いスタイルで活躍

西口 やはりスーツなどテーラードウェアに合わせるのがいいでしょうね。といっても、そのままピタピタなモッズスーツを着るというわけではありません。皆さんが普段愛用されている現代の服と合わせるのがいいと思います。今のムードなら、ワイドパンツとコーディネートするのも大いにアリですね。ただし、いかにもビジネススタイルという服装には合いませんのでご注意を。たとえばフランネルのスーツにタートルネックのニット、足元はこの冬再注目のチェルシーブーツ、といった装いはとても洒落ていると思います。

M.E. シンプルにドレスダウンしたスーツスタイルに、骨太なM-51がアクセントを加えてくれますね。

西口 そうですね。イタリアンクラシックな服装にミックスしてもいいですし、フレンチ風にコーディネートすることもできると思います。クセが強く見えがちですが、実は意外と使いやすいアイテムなんですよ。

M.E. ストリートやアメカジ以外にも色々な着方ができるんですね。

西口 おっしゃるとおりです。ちなみに、コートのサイズ感は往年のモッズにならい、ガバッとした大きめが格好いいと思います。もともとかなりゆったりした設計なのですが、サイズダウンしすぎてスリムに見えてしまうとモッズコートならではの魅力が損なわれてしまいますね。

M.E. 普通のロングコートとはサイズ感が少々違う点に注意ですね。話は変わりますが、M-51は軍ものだけにコンディションの差が激しそうです。店頭で吟味する際、気をつけるべきポイントはありますか?

西口 本体のシェルパーカと身頃のライニング、ファー付きのフードが揃ってフルセットとなるので、欠損していると品物としての価値は下がってきます。あとはシェルの傷みや汚れも頻繁に見られますので、購入前に確認しておくとよいでしょう。それから、フロントのジッパーが欠損している場合もあるのでチェックしておきたいところですね。

M.E. 今回お持ちいただいた一着は付属品が全て揃っていて、シェルの傷みも少ないですね。これくらいのコンディションなら、テーラードウェアと合わせても違和感なさそう。

西口 そうですね。最近はヴィンテージブーム再燃によって、状態のいい個体がかなり少なくなってきています。よく吟味していただくのはもちろん、入手後も大切に着ていただきたいですね。

<p><b>ライニングの付け方に注目</b><br />
「ライニングはわざとボタンホールの外側からボタンを通し、端で折り返すようにして付けています。これは『さらば青春の光』に倣ったもの。こうするとボタンが隠れてスッキリ見えます」</p>

ライニングの付け方に注目
「ライニングはわざとボタンホールの外側からボタンを通し、端で折り返すようにして付けています。これは『さらば青春の光』に倣ったもの。こうするとボタンが隠れてスッキリ見えます」

<p><b>袖にもさりげない機能性が</b><br />
「大きなアームホールに袖の付け根をカーブさせて取り付けることで、腕を挙げやすい設計になっています。機能性を重視したミリタリーコートならではのデザインといえますね」</p>

袖にもさりげない機能性が
「大きなアームホールに袖の付け根をカーブさせて取り付けることで、腕を挙げやすい設計になっています。機能性を重視したミリタリーコートならではのデザインといえますね」

<p><b>武骨なアルミジッパー</b><br />
「ジッパーにはいくつかバリエーションがあるのですが、こちらはクラウン社のアルミ製。武骨な雰囲気が魅力です。ほかにタロンやコンマー製のものもあり、真鍮製ジッパーも存在します」</p>

武骨なアルミジッパー
「ジッパーにはいくつかバリエーションがあるのですが、こちらはクラウン社のアルミ製。武骨な雰囲気が魅力です。ほかにタロンやコンマー製のものもあり、真鍮製ジッパーも存在します」

<p><b>キルト付きゴルフで足元にアクセントを</b><br />
スーツの足元に、あえてジェイエムウエストンの「ゴルフ」をコーディネート。こちらはキルト付きのタイプで、程よいボリューム感がM-51と好バランス。それでいて、フレンチトラッドの名門ゆえの上品さでスーツにも馴染んでいる。</p>

キルト付きゴルフで足元にアクセントを
スーツの足元に、あえてジェイエムウエストンの「ゴルフ」をコーディネート。こちらはキルト付きのタイプで、程よいボリューム感がM-51と好バランス。それでいて、フレンチトラッドの名門ゆえの上品さでスーツにも馴染んでいる。

<p><b>小物にさりげなく英国テイストを</b><br />
手元のアクセントとして合わせたのは、ブリティッシュミリタリーのリストウォーマー。M-51とテイストを揃えつつ、さりげないミックスを効かせているのが西口さんらしい。バッグは今年注目のシンプルなデイパック。</p>

小物にさりげなく英国テイストを
手元のアクセントとして合わせたのは、ブリティッシュミリタリーのリストウォーマー。M-51とテイストを揃えつつ、さりげないミックスを効かせているのが西口さんらしい。バッグは今年注目のシンプルなデイパック。

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