世界中から注目される工房
ドラマで使われていた包丁が作られているところを見学したいと思い、工房を訪問した。
工房には、職人がたくさんいて、非常に活気がある。事務所には芸術品とも言えるほど美しい包丁とともに、多くの著名シェフの写真が飾られていた。中でもフラッグシップモデル「鍛造粉末不錆鋼ダマスカス共鍔貫通八角柄『打雲 花』筋引き」の妖艶とも言える美しいフォルムに目を奪われた。
このモデルは、高硬度、高靭性、高耐摩耗性という本来は相反する性質を同時にあわせ持ち、それは高村刃物製作所の高い技術が結集されてはじめて実現できるのだという。鋼を挟んでいるダマスカス鋼は、2種類のステンレスを交互に重ねて、材料を熱して打ちのばし、鋼を鍛えることで独特の美しい模様を浮かび上がらせる。
衝撃的な切れ味と芸術品のように美しいフォルム
試し切りをした際の衝撃は、未体験のものであった。
トマトはもちろん、ニンジンでさえも刃物に切るものの抵抗をほとんど感じさせず、それは空中で刃物を移動させるような感覚。
トマトは左手を添えず、刃を当てるだけで紙のように薄くスライスできる。かつて、ここまで薄くスライスができたことはない。
高村のロゴである“三ッ刃”には「よい材料、よい鍛造・熱処理、よい砥ぎ」という3つの精神が込められてるという。お客様の手に渡る前、これらの要素が互いに影響しあってはじめてよい刃物、すなわち、よい包丁は生まれるのだと。
目には見えない高い技術のなせる技により鍛錬された包丁は、なにより軽く、そして長身の包丁でもバランスが良く、調理する際のストレスを感じさせない。
物欲に完全に火がついた。欲しい。ほんとうに。オトコゴコロをくすぐる芸術品のような包丁に出会った。いい道具は心を満たす。