「茹で一生」の技術は本物だった
産地では「目利き十年、茹で一生」という言葉もあるほどで、状態の良いカニを目利きして選ぶよりも、カニを上手に茹でることの方が難しいとされる。この茹でガニを筆頭に、産地でプロの手によって調理されたカニの味は格別なわけである。
福井県内には有名な料亭や旅館が数多くあるが、競りが行われる越前町漁協からわずか10分ほどにある「かねとも水産」に伺い、越前がにの最もシンプルな食べ方である茹でガニをいただく。
「かねとも水産」はもともと仲卸だが、店頭で茹で上げたばかりのカニを購入することもできる。店頭で食べることもでき、また旅館も経営している。
運が良ければ店主から、もっとも美味しいカニの食べ方を伝授していただけることもある。まずは、12月までしか獲ることができないメスのズワイガニ、通称「せいこがに」。資源保護のため漁期は11月6日~12月31日までの2ヶ月となっている。地元の人は、オスよりメスが美味しいとよく言うそうだ。
その理由は、身の部分は少ないものの、「外子(そとこ)」と呼ばれる腹部に抱えた成熟した卵巣と、「内子(うちこ)」と呼ばれる甲羅腹内の赤身(未成熟の卵巣)、そしてカニ味噌をいっぺんに食べることができるからである。
福井県民は小学校の給食に「セイコガニ」が出ることもあり、食べ方についてはみなさん一家言持っている。県庁の方よりレクチャーを受けつつ、きれいに食すことができた。
カニ味噌も外子も美味しかったが、個人的には内子が一番だった。最後まで残して少しずつ味を噛み締めた。取材は午前中だったが、日本酒があれば……、と切に思った。