乗り心地などはオープンをメインにセッティング
クローズドスタイルは金属製では表現できない連続する曲線フォルムが魅力だ。けれども実際に触ってみると驚く。全くもってソフトなんかじゃない。押しても凹みもしないほどハードだ。要するにこれはソフトトップとリトラハードトップの良いとこ取り。ソフトトップへの回帰などではなく、全く新しいトップだと考えた方がいいかもしれない。
それゆえクローズドのままで走り出すと、これがフルオープンのクルマだとはとてもじゃないけど思えない。ルーフの大開口にあたり足回りやシャシーが鍛え直されていることもあって、街中ではやや硬い乗り心地に終始するものの、全般的にはクーペに遜色ないパフォーマンスをみせる。メタルトップよりも軽いことは明らかで、重心高ははっきりと下がっていると実感できるから、違和感も減った。メタルトップユーザーがかわいそうに思えてくるくらいだ。
トップの開閉時間も18秒に短縮され、50km/h以下であれば走行中の操作もできる。これは大きい。気軽にオープンエアクルーズを楽しむことができるという点でも、ソフトトップは優れている。
オープンにすると、ちょっとバタついて嫌だな、と思っていた乗り心地も随分と改善される。オープン主体のセッティングがなされているのだろう。クローズドで感じられた節々の力みがスーッと消えていくように思えた。
3リッター直6ターボエンジンのパフォーマンスは相変わらず胸がすくという表現の似合う類で、オープンではなおのこと、腹の底を大量の空気が抜けていくようなマルチシリンダーエンジンに特有の醍醐味を味わうことができる。8ATとxドライブとの組み合わせにより、加速の安定感と小気味良さはクラス随一の爽快さだ。太いエグゾーストノートをダイレクトに感じることができる点も、オープンカーならでは。今はまだ、このサウンドに酔いしれていたい。
現時点ではM440iのxドライブ(4WD)にしか試乗できていないけれど、本命はFR(後輪駆動)の420iだ。おそらく、もっとカジュアルで軽やかなオープンドライブを楽しむことができるはず。足回りの引きつった印象も穏やかになっていることは容易に想像がつく。高性能を追い求める向きは、いっそM4コンバーチブルを考えた方がいい。多くの読者にとってベストチョイスは、実はクーペもそうだけれど、420iの方だと思っている。
文=西川淳 写真=デレック槇島 編集=iconic