意のままの加速で、飛ばさなくても楽しい
賛否両論ある縦長の大きなキドニー・グリルだが、Mモデルになるとこれはこれでアリだなと思わせられるからデザインとは不思議なものだ。先代からたひとまわり大きくなったボディは、ボンネット、フロントフェンダー、ドアをアルミニウムに、ルーフにカーボン(CFRP)を用いて軽量化を施している。エンジンルーム内をのぞいてみても、ストラットタワーバーをはじめ、さまざまな補強が施されていることがみてとれる。
こうした屈強なボディもあって、電子制御ダンパーをコンフォートモードにセットしておけば驚くほどに乗り心地がいい。タイヤはミシュラン製パイロットスポーツ4Sを装着していたが、スムーズに回転しているさまが伝わってくるようだった。
新設計という直6ツインターボエンジンは、低回転からよどみなく力を発揮し、途切れることなく滑らかに高回転まで吹け上がっていく。高回転域だけでなく、低回転域でのアクセル操作に対する追従性がよく、意のままにクルマが加速してくれるので飛ばさなくても運転が楽しい。
スポーツモードに切り替えれば、怒涛のパワーが押し寄せ、4本出しマフラーから心躍る直6サウンドが聞こえてくる。昨今、電動車ばかりに注目が集まるが、人間にとって音がいかに重要な要素であるかを再認識することにもなった。
速くて気持ちよくて快適で安全で洗練されていて実用性が高い、Mモデルの中心をなすM3/M4の最新版はますますの進化を果たしており、コンフォートとスポーツとのあいだにある振り幅をより一層拡大している。ピュアな6気筒の内燃エンジン搭載車で、後輪駆動かつMTなんていう組み合わせの、内外装色やあれこれをコンフィギュレートしてワクワクするのに残された時間は、もうそれほど長くはないかもしれない。狙うならいまだ。
文=藤野太一 写真=デレック槇島、ビー・エム・ダブリュー 編集=iconic