ビームスのクリエイティブディレクター、中村達也さんが所有する貴重なお宝服の中から、ウンチク満載なアイテムを紹介する人気連載「中村アーカイブ」。「ベーシックな服もアップデートされていくので、何十年も着続けられる服は意外と少ない」という中村さんだが、自身のファッション史の中で思い出深く、捨てられずに保管してあるアイテムも結構あるのだとか。そんなお宝服の第45弾は……?
【中村アーカイブ】 vol.45 / ドレイクスの虎柄プリントチーフ
1990年代半ば頃に購入しました。’90年代に入ると英国調の流れが起き、様々な英国ブランドが注目されるようになりました。DRAKE’S(ドレイクス)もその一つで、’80年代後半には既にネクタイブランドとして有名になり、’90年代に入ると世界的にも注目されるブランドとなります。
ドレイクスは英国ブランドでありながら、イタリアやフランスやアメリカなど、英国以外の国々をターゲットとしたデザインのネクタイやスカーフを展開していて、それが他の英国ブランドとは明らかな違いでした。
確かに当時、ドレイクスのネクタイやスカーフを英国のショップで見かけることはほとんどなく、フランスやイタリアやアメリカの有名店で見ることが多かったことは、自分の記憶の中にも鮮明に残っています。
さらに、当時ドレイクスはクラシックなショップだけでなく、デザイナーズブランドを扱うようなショップでも展開されていたことを考えると、そのデザイン性の高さが評価されていたことがうかがえます。
そんなドレイクスが、当時他のブランドでは見ることができない独特な柄のポケットチーフを打ち出します。それが、この虎柄のプリントのポケットチーフでした。
当時は英国調がトレンドだったので、ポケットチーフも英国的なクラシックな柄が多く、イタリアのブランドはそれをアレンジしたきれいな色のものを打ち出し、アメリカのブランドは英国柄を誇張した大柄のものを打ち出し、市場は英国のクラシックをベースにアレンジした柄ばかりで、このような大胆なプリント柄を提案するブランドはドレイクス以外どこもありませんでした。
自分自身このチーフを初めて見た時は、見たこともない柄なので正直あまり興味が湧きませんでした。
それでも当時の上司がかなり気に入っていたので、この虎柄の意味をデザイナーのマイケル ドレイクに聞くと、当時彼がインドやネパールを何度も訪れ、その時に見た伝統的な絵画にインスパイアされ、それを彼の独自の感性でアレンジしデザインしたのが、この虎柄のチーフだということを知ります。
アートに疎い私でもそのストーリーを聞くと急に興味が湧き購入したのがこのチーフでした。
このインド、ネパール柄以外にもダンスステップ柄やギター柄など、当時は本当にドレイクスにしかない独特な柄のチーフが毎シーズン打ち出されていました。
マイケルドレイクはキャリアのスタートがスカーフのデザイナーだったので、いま思えばスカーフデザイナーとしての彼の感性から生まれたのが、このチーフだったのだと思います。
ちなみにこのチーフ、デザイン自体は今もあるので復刻させることはできますが、当時の英国のシルクスクリーンプリントのファクトリーが廃業しているので、いま復刻させようと思うとインクジェットのプリントになり、色や柄の深みが当時とは違ったものになってしまうのです。
柄のウンチクもさることながら、今となっては貴重な英国のプリント工場で一枚一枚伝統的な手法で染められたのがこのチーフなのです。
マイケルドレイクは引退してしまいましたが、彼は今でも私が最もリスペクトするアクセサリーデザイナーです。
このチーフは私のバイイング歴の中でも特に思い出深いもので最もドレイクスらしいチーフなので、そろそろ額装して飾ろうかなと思っています。自分にとっては、それほど価値のあるチーフなのです。