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M.E. でも、お任せで仕立ててもらって、“ちょっとイメージと違う……”ということはないんでしょうか?

加賀 それはもちろんあります。仮縫いの段階で、着丈のバランスやシルエットが自分の好みと少し違うこともあります。そういうときに、“こう直してください”とリクエストするのはもちろんアリなのですが、私はまずそれを作り手の提案として受け止めるようにしています。実際に完成品を着てみて、“直さなくてよかったな”と思うこともありますし、そうでないこともあります。でも、ビスポークに“百発百中”を求めるべきではないと思うんです。

M.E. ときには失敗もあるものだと。

加賀 “3勝2敗”くらいのつもりでビスポークと付き合うくらいがいいと思います。昔、フランコ・ミヌッチのクロゼットを見せてもらったことがあるのですが、そこにはほとんど着た形跡のない服がズラリと並んでいました。「なんで着ないの?」と尋ねると、「ケンジ、ビスポークとはそういうものなんだよ」と返されました。なるほどと感銘を受けましたね。

M.E. なるほど。しかし、慣れないうちは失敗が痛く感じてしまいます……。

加賀 そういう方は、いきなりイタリア現地のサルトに飛び込まずに、日本のテーラーや日本人のエージェントがついたオーダー会で注文するのがいいでしょうね。とはいえ、自分の思いばかりを一方的に伝えるのはおすすめしません。ある程度“いいかげん”なほうがよいのです。それが、作り手と依頼主との信頼関係にも繋がります。

M.E. 力みすぎてはダメなんですね。

加賀 そういうことです。ビスポークで得られるものは洋服だけではありません。採寸、仮縫い、納品、そしてその後の付き合いも通してテーラーと共有する時間。そこで体験する様々な出来事。こういったこともひっくるめてビスポークなんです。だから、ビスポークとは単なるショッピングではなく、総合エンターテインメントなんです。

M.E. それ、まさに我々が今回の特集で大テーマにしたことです!

加賀 エンターテインメントですから、予定調和では面白くない。何が起こるか期待しながらオーダーを進めて、ときに想定外の驚きにも遭遇する。だからこそ堪らなく面白いんですよね。

M.E. そういう心構えをもつ人が今後もっと増えていくといいですね。

加賀 国内外でネクタイのトランクショーをやっていて思うのは、結構若い方が多いということ。普段はスニーカーを履いているけれど、実はジャケットにもちょっと興味があるという方は想像以上にいらっしゃいます。そういう方のために、ビスポークの世界も扉を開けていてほしいなと思いますね。

古き良きナポリ仕立てを思わせる作風が魅力です

Kaga’s FAVORITE

  アレッサンドログエッラ_ジャケット
タイ3万3000円/アット ヴァンヌッチ(レガーレ)

ALESSANDRO GUERRA(アレッサンドロ グエッラ)
日本にもファンの多い気鋭ナポリサルト

アットリーニ家の親戚筋にあたるアレッサンドロ・グエッラと、その息子ジャンピエロ・グエッラが率いるナポリの気鋭サルトリア。ロックダウン前は日本でも原宿の「ミスター・フェニーチェ」などで定期的にオーダー会を行っていて、クラシックファンから大いに人気を博していた。「オールドスクールなナポリ仕立てを彷彿とさせる作風ですね。ラペルは広く、シルエットはゆったりとしています。非常に器用でフィッティングの精度も高いので、ビスポークに慣れていない方にもおすすめできるサルトリアですね。仕事も大変丁寧です。ナポリ人には珍しく(笑)、とても寡黙で控えめ。紳士的な人柄にも好感がもてます。日本人ともフィーリングが合いやすいと思いますね」

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