多くの個を束ね、組織を成功に導いている一流のトップには、どんな思考があるか? 会社のマネジメントにも役立つ“ヒント”を加藤綾子さんがそっと探り、お届けする。
【加藤綾子 一流思考のヒント】
第32回 建築家 隈 研吾さん[前編]

Profile
加藤綾子 Ayako Kato
1985年埼玉生まれ。2008年フジテレビ入社、看板アナウンサーとして活躍。’16年、フリーアナウンサーとなり女優としても活動。現在は報道番組『Live News it!』(CX)のメインキャスターを務めるほか、『ホンマでっか!?TV』(CX)にレギュラー出演中。
著書に『会話は、とぎれていい―愛される48のヒント』(文響社刊)など。
隈 研吾 Kengo Kuma
1954年神奈川生まれ。’79年東京大学大学院建築学専攻修了。’85年コロンビア大学建築・都市計画学科客員研究員。’90年隈研吾建築都市設計事務所設立。現在は東京大学特別教授・名誉教授も務める。20ヶ国以上で建築を設計し、国内外で多くの建築賞を受賞。最新刊に『ひとの住処』(新潮社刊)。
「今は大変な状況もあると思うけれど 忙しいと本当に大事なことを考えなくなってしまうから 暇なときこそ実はチャンス」
(隈 研吾さん)
ありのままの自分を見せて逆の意見を言いやすい空気を
加藤 隈さんは世界中で数々のプロジェクトを進行中ですね。
隈 たぶん100以上ある。スタッフは東京事務所が230人で、中国では北京と上海に20人ずつくらい、パリが35人くらいいるから、合計300人ちょっと。
加藤 それだけの数のスタッフとどのように接しているんですか?
隈 打ち合わせはどのプロジェクトも大体5分単位。コロナ以降はリモートでやることも増えたけど、基本的に模型を置いて「ここはどうなってる?」 「あれはどうなってる?」と聞いて、 「こうしよう」と決める。古いタイプの設計会社とかだと「1時間会議室を取りましょう」となって、その大部分は上役の自慢話で終わるでしょ(笑) 。
加藤 隈さん自身がきっとそういう自慢話を聞くのがお嫌だったんですね(苦笑)。
隈 すごく嫌だった(笑)。だから、うちでは大きいプロジェクトでもチームは5〜6人くらいに留めて、サッカーのパスを回すようにスピーディにコミュニケーションをして、わからないことは得意なやつにパスを回して、どんどんゲームを組み立てていくやり方を大事にしている。悩むのは時間の無駄だし、10人くらいになってくると自由に発言できない人ができて、全員参加ムードがなくなるんだよね。
加藤 スタッフと深く交流する機会は持たれないんですか?
隈 地方の現場に行ってチェックを終えた後などは、なるべく所員と飲みの場を持つようにしている。地域の飲み屋っていうのが重要で、その土地の文化や人々の考えを吸収できるんだよ。ネットだけで調べるんじゃなくて、居酒屋で「最近、景気はどう?」とか聞いてみると、行政への苦情も含めいろいろと出てくる(笑)。「こういう建物を造ったら、きっと喜ばれるんじゃないか」というヒントは、そういうところにいっぱいあるよね。