ビームスのクリエイティブディレクター、中村達也さんが所有する貴重なお宝服の中から、ウンチク満載なアイテムを紹介する人気連載「中村アーカイブ」の秋冬バージョンをご紹介。「ベーシックな服もアップデートされていくので、何十年も着続けられる服は意外と少ない」という中村さんだが、自身のファッション史の中で思い出深く、捨てられずに保管してあるアイテムも結構あるのだとか。そんなお宝服の第27弾は……?
【中村アーカイブ】 vol.27 / デボネアのストライプタイ
1990年代前半に購入しました。DEBONAIR(デボネア)のネクタイと聞いてピンとくる人がいるとすれば、それはかなり’90年代の英国のクラシックに造詣が深い証拠だと思います。
デボネアは、ロンドンのROYAL OPERA ARCADE(ロイヤル・オペラ・アーケード)にあったハンドメイドのネクタイを扱うショップでした。
’80年代後半頃にBEAMSのロンドンオフィスのスタッフが街を散策中に偶然見つけたショップで、その小さな店に入り店主に話を聞くと、その店主(POUL SAADE ポール・サード氏)はもともとTURNBULL&ASSER(ターンブル&アッサー)に勤めていて、独立してその店を始めたということ。
そして、ネクタイは地下の工房で裁断から縫製まで全てハンドメイドで作られていることを知り、そのロンドンの小さな店でしか売られていなかったネクタイをBEAMSで展開することになりました。
当時すでにBEAMSで英国ブランドのネクタイを何ブランドも展開していましたが、デボネアのネクタイは英国のクラシックをストレートに表現した柄とソフトでふかふかした芯地、ひと目でハンドメイドとわかる縫製が他のブランドにはない雰囲気で、スタッフや顧客の間で大人気となりました。
毎シーズン新しい柄が入荷するとすぐに完売するほど人気があり、当時のクラシック好きのスタッフはデボネアのネクタイを競うように購入していました。
このネクタイは当時ネイビーブレザーと合わせようと思い購入したものです。当時はイエローベースのネクタイが人気だったこともあり、この柄を選びましたが、実際に着けてみるとストレートな英国のクラブタイの雰囲気がブレザーと合わせると制服っぽく見えてしまい、なかなか自分のものにするのは難しかったことを今でも覚えています。
私もデボネアのショップは’90年代に何度か訪れましたが、今は少なくなってしまった英国紳士のための洋品店という雰囲気が色濃く感じられるショップでした。
デボネアは2000年代前半に閉店してしまい、当時ロンドンの数あるアーケードの中でも地味な存在だったロイヤル・オペラ・アーケードも、今ではお洒落なカフェやアートギャラリーが並ぶアーケードに変わりました。
’90年代は色々な意味で英国のクラシックが元気だった時代。そして、そんな時代にロンドンの街で小さくてもこだわったものづくりをしていたデボネアに敬意をこめて、このネクタイは私の一生のアーカイブとして残していきます。