M550iならスイッチひとつで“両方”が味わえる
M550iの乗り心地が驚くほど良かった理由はこれでわかってもらえただろうが、このままではとてもMの名にふさわしい走りは期待できそうにない。そんなことを考えながらふとドライビング・パフォーマンス・コントロールの設定を見ると、デフォルトのコンフォート・モードになっていた。
職業柄、この手のモード切り替えは必ず試してみるけれど、多少ダンパーが硬くなったりする程度で、クルマのキャラクターが一変したケースにはほとんどお目にかかったことがない。だから、このときもほとんど期待していなかったのだけれど、実際にセンターコンソール上のスイッチでスポーツ・モードを選んでみたところ、クルマのキャラクターが180度変わって腰を抜かしそうになった。
そう、まるで“ホンモノのM”みたいに足回りが硬くなり、ステアリング・レスポンスが驚くほど鋭くなったのだ。おかげで5シリーズの余裕あるボディがぎゅーっと小さくなったかのような軽快感が生まれた。しかもエンジンとギアボックスもスポーティなモードに切り替わり、軽くアクセルを踏み込んだだけでドンッと背中を押されるほどの強い加速感があった。
それでいながらxDrive=フルタイム4WDのおかげで安定感もバツグン。大きく回り込むコーナーを真剣に攻めてみたけれど、リアタイヤがグリップを失う気配はまるで見られず、ドライバーが狙ったとおりの走行ラインをトレースしてみせたのだ。
私はMパフォーマンスのことを「“フツーのBMW”と“ホンモノのM”の中間にあたる立ち位置」と説明したけれど、M550i xDriveはちょっと違う。スイッチひとつで“フツーのBMW”と“ホンモノのM”の両方を味わえる、変幻自在なスポーツセダンがM550i xDriveなのである。
文/大谷達也 写真/茂呂幸正 編集/iconic