ヴィンテージ・モータリングの新解釈といえる味わいに唸る
2020年製4.3リッター・バンデン・プラ・ツアラーの直6は、基本的に同じパーツで組み立てられたエンジンだが、オリジナルの1937年式の3連SUキャブレターに対し、インジェクションとECUユニットで制御される。
操作する度、手首にゴロっとした手ごたえの残る1937年式のシフトレバーとは対照的に、適切な遊びもあってストロークの短い、トレメック社製の6速トランスミッションは扱いやすい。
しかも1~4速のギア比がクロースしている分、エンジンの吹け上がりが軽快で速い。ビッグボアの直6を鋭いレスポンスで味わうという意味では、2枚ほど上手を行く。1937年式の方では息の長い、力強い加速感だったものが、重厚だが切れ味のある加速感に見事に変わっているのだ。
さらにラック&ピニオンを採用したステアリングの現代的なフィールも、2020年製のパワートレインには合っている。路面インフォメーションが1937年式よりリッチなので、自ずと操るという感覚も鮮明だ。それでいて頭上を優しく撫でる風の流れはオリジナルと同じく、心地よい。唯一の欠点はペダル配置で、アクセルペダルがブレーキに対して遠くヒール&トゥができないことだが、調整で改善の余地はあるだろう。
いずれコンティニュエーション・シリーズの4.3リッター・バンデン・プラ・ツアラーは、レストアではなく、単なる再生品やリプロの域で終わってもいない。現代の公道を走るのなら、こちらの方が扱い易く気難しくないことが察せられるのだ。おそらく本物の1937年式のようなクラシックカーとしてのプレミアム価値を生むこともないが、間違いなくいえるのは、それこそがアルヴィスが市販車として生き残り損ねた理由だが、大量生産時代のクルマと異なって、一度手に入れたら手を入れながら一生乗るモノという、工芸品に近い造りをしていた時代のモータリングが味わえる。そこにこのクルマの贅沢さがある。
ちなみに日本での参考価格というか英国での港渡しの価格で、2020年製の4.3リッター・バンデン・プラ・ツアラーは5274万5000円。
現代のスーパーカーと同じかそれよりも高いぐらいだが、ハイエンドな高級車を残価設定ローンで次々と乗り換える時代とは対照的な、そういう時代の造りの凄さというか、下取りの高さとか資金効率のロジックからは見えてこない価値観が、そこにはある。それは、実際に経験してみるまで分からないものだ。幸い、品川の港南口から歩10分ほどのところに、過去モデルも含めて数台を展示しているアルヴィスのショールームがある。基本的に予約制となっているが、興味のある方は訪れてみて欲しい。
文/南陽一浩 編集/iconic






