フラッグシップサルーンをベースに

初代トゥアレグのデビューは衝撃的だった。当時はSUVに不可欠とされていたオフロード性能を備えながら、日常においては快適性とフォルクスワーゲンらしい生真面目さがもたらすスポーティさを与え、さらにはラグジュアリィを語れる質感を持つ、という3cars in 1を実現し、それまではあり得ないとされたバランスをもったSUVだったからだ。
走破性と語れるレベルのオフロード性能を有するためには、ラダーフレームやリジッドサスであったり、強靱なるハードウェアが必須であり、ラグジュアリィに仕立てるためにはそれらをいかに設えるかがポイントとなっていた。トゥアレグが登場するまで、高級SUVにおいてジープ グランドチェロキーがベンチマークとされていたのは、前後リジッドサスによるハイレベルなオフロード走破性を持ちながらも、高級感ある乗り味を作り込んでいた、そのバランスゆえのこと。
しかし、フォルクスワーゲンはオフローダーをベースとし高級に仕立てるという手法では、スポーティやラグジュアリィを誇るには限界があることを知っており、大胆ともいえる考え方を採用。フラッグシップであったフェートンと多くを共用しながら、つまり、高級サルーンたる素性をベースにしながら、オフロード走行に求められるハードウェア、たとえば、ローレンジをもったフルタイム4WDシステム、ストローク量を大きく確保したサスペンションを採用し、そこに、耐久性や信頼性をプラスしたのだ。結果、快適な乗り心地はもちろんのこと、270km/hでの走行を想定したスポーティテイストまで持ちつつ、オフロードでは傾斜角45°の登坂、35°の斜面の走行、さらに水深500mm(エアサス付モデルは+80mm)での走行を可能とした。
と、カタログやリリースどおりに書くと、そのスゴさは伝わりづらいが、実際には、高級サルーンそのままの快適性にあふれる乗り味をもちながら、ワインディングではスポーティなハンドリングに、高速では安定感がもたらす安心感に驚かされ、その上で、オフロード走破性に驚愕したことを今でも強く覚えている。
もちろん、乗用車のプラットフォームをベースとしているため、サスペンションは4輪独立懸架式となり、オフローダーを名乗るモデルのポテンシャルには届いていないところがある(具体的にはサスペンションの伸び縮みが少ない)。しかし、その状態、つまり、タイヤが路面から浮いてしまっている(タイヤが滑っている)状態でも、トラクションコントロールの作動によって、その不足分をアシストし、何事もなかったかのように不整地を突き進んで行ってしまう。さらに、ローレンジを用いれば、通常の約2.7倍となるギア比によって、ジワジワといった感じのスロースピードかつ強いトルクによるオフロード必須の走りも可能。それに止まらず、デフロック機能まで備えており、想像以上の走破性を持ち合わせていた。