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「手ぶらが似あう優雅さ。 アステアのスーツは僕の理想」(綿谷さん)

綿谷寛さんと中寺広吉さん


イラストレーター 綿谷 寛さん

1957年東京生まれ。日本を代表するファッションイラストレーターにして洒落者。映画を題材にしたイラスト作品も数多い。愛称は画伯。


バタク 代表 中寺広吉さん

1965年富山生まれ。ビスポークテーラー「batak」のモデリスト。日々「batak 中寺創作室」にてバタク・スーツの型紙を作成している。

M.E. 綿谷さん、今日は仮縫いですね。好きな映画に基づいてスーツを誂えられるということですが、どんなスーツを思い描いているのか、教えていただけますか。またなぜ、バタクで仕立てようと?

綿谷 フレッド・アステアが映画『パリの恋人』で着ていた、ダブルのフランネルスーツをイメージしています。アステアやゲーリー・クーパーといった往年の映画俳優は、映画の中で何をするにもスーツを着ているんですね。彼らのスーツは会社へ着ていく仕事着じゃなく、もっとスポーティであり、エレガントなもの。恋愛のシーンでも、格闘シーンでも、いかなるシーンでも自然にスーツを着ていて、僕にはその姿がとても素敵に映る。仕事でスーツを着る必要がない僕は、遊びに行くときに着たいと思っていて、するとアステアがしなやかに着ていたフランネルスーツは、理想を絵に描いたようなものなんです。そこで、映画にも英国の仕立てにも精通する、バタクの中寺さんを訪ねたという次第です。

綿谷さんイラスト

中寺 映画でアステアが着ているのは、’50年代を象徴するドレープスーツ(※ソフトな仕立てや胸のゆとり、逆三角形型を特徴とするスーツ)ですよね。様々な年代のクラシックなスーツを好まれる方がいらっしゃいますが、ドレスに精通する方は、最終的にここへ行きつくことが多い。普段着に近い、最も自然体のクラシックを楽しめるのがこの時代のスーツです。

綿谷 スキップが似合うようなね。アステアの映画にはそういうシーンがあって、ゆったりしたパンツの裾からピンクのソックスがちらちら見える。ああいう遊びを感じさせるスーツ姿が、僕の憧れるものです。夜、手ブラで街へ遊びに行くにもぴったりですね。

中寺 アステアはあれをアンダーソン&シェパードで仕立てていた。ここはサヴィルロウの中でも柔らかい仕立てを得意とするところですから、ナチュラルショルダーに馴染んだアメリカ人の感覚にフィットしたのかもしれませんね。

M.E. 綿谷さんはどんな生地を選ばれたのでしょうか?

綿谷 フォックス ブラザーズのグレーフランネルです。色も濃すぎず薄すぎずで、一番フレッド・アステアらしいイメージですね。

フォックス ブラザーズ
1772年創業のフランネルの名門、「フォックス ブラザーズ」の目付が500gを超えるグレーフランネル生地に決定。その風格はやはり、唯一無二だ。

中寺 「クラシックフランネル」というバンチで、選ばれたのは目付が500gを超える、今ではあまり見ないヘヴィウエイトの生地。最もフランネルらしいフランネルだと思います。こうした重い生地を手縫いで柔らかくドレープスーツに仕立てると、’50年代当時の優雅な雰囲気が出せるんです。

M.E. ちなみに各所のディテールも映画を踏襲したのでしょうか?

綿谷 いえ。フロントはダブルでボタンは段返り下1つ掛けで……というのは踏襲しましたが、そもそもアステアとは脚の長さも顔立ちも、何もかもが違うから(笑)。

中寺 映画のスーツを、となるとディテールも完璧に再現したいと思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、綿谷さんがおっしゃるように、映画の登場人物とその人ではキャラが違います。なのにディテールだけ寄せようとしても、こんなはずじゃなかった……となりがちなんですね。だから今回でいえば、アステアの寛いだ雰囲気、エレガントな空気感をどうプロポーションで表現していくかというのが、最も集中すべきところなんです。綿谷さん、仮縫いのスーツを着てみていかがでしょうか?

綿谷 見慣れていないのもあって、結構太く見えますね。肩も落ちてインパクトはあるけど、やりすぎに見えませんかね。大丈夫かな!?

「最も自然体のクラシックを楽しめるのが’50年代のスーツ」(中寺さん)

綿谷寛さんと中寺広吉さん
仮縫いのスーツを着て、早くも嬉しそうな笑みをこぼしていた画伯。肩幅や胸のドレープ量をどうするか、中寺さんと入念な検討を行っていた。

中寺 パンツはまさに’50年代的でいいバランスだと思います。あとはジャケットですが、私としては綿谷さんにはこのくらいの肩幅が格好いいかと。本縫いではナチュラルショルダーになります。ただ、胸は少し狭めてドレープを削るほうがバランスがいいでしょう。

綿谷 肩広すぎないかなぁ、アステアっぽいっちゃぽいんだけど。あ、見慣れてきたら格好いい気もしてきたな。も〜わかんない(笑)。中寺さんに全部おまかせしますよ。

中寺 承知しました。責任をもって仕上げさせていただきます。



[MEN’S EX 2020年5月号の記事を再構成](スタッフクレジットは本誌に記載)
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