古くて遅いフォルクスワーゲンが愛される理由
どれも基本的にはウン十年前の車であり(※ビートルは比較的最近までメキシコで生産されていたが)、ウン十年前の車なものだからぜんぜん速くはなく(むしろ遅い)、そしてウン十年前の機械ゆえしばしば故障もする。
となれば、一般的な人間の脳裏に自動的に浮かぶ疑問は下記のとおりとなるだろう。
「……そんなモンになんでわざわざ乗るの?」
確かに、傍から見ると意味がよくわからない。まあ単純に「デザインがかわいいから!」というのは大いにあると思うが、いわゆる女子の皆さんだけでなく、いかにもカーマニアっぽい顔をした男子の皆さんも喜々として、古くて遅いフォルクスワーゲンを愛でてらっしゃる。
今ひとつ理由がわからない……となるのが普通の反応だとは思うが、筆者はその理由を知っている。今回のイベントでの取材を含むさまざまなヒアリングと自らの経験により、「これだ!」という答えを見つけているのだ。
空冷世代のフォルクスワーゲンが愛され続けている理由。それは、空冷ワーゲンに乗ると「負けるが勝ちの快感」を得ることができるからだ。
「負けるが勝ちの快感」というのはほぼ筆者の造語であるため、ちょっとわかりにくいかもしれない。だが一度でも空冷ワーゲンでそこらの高速道路を走ってみれば、そのニュアンスはたちどころに伝わるはずだ。
例えば「ワーゲンバス」ことフォルクスワーゲン タイプ2で高速道路を走るとする。まあ非力な古い車でブレーキも若干プアなので、100km/h制限の区間だったとしても70km/hか80km/hぐらいでいちばん左の走行車線を巡行することになるだろう。
すると当然ながら、右横の車線を現代の車が追い抜いていく。特にすっ飛んで行くのはドイツ製の最新高性能サルーンである場合が多い。
で、そういった車たちに「邪魔だ! どけ!」と言われんばかりに追い越されまくるフォルクスワーゲン タイプ2のドライバーはそのとき、どんな気分でいると思うだろうか?
遅〜い車に乗っている自らの運命を呪い、同時に、ドイツ製高級車のドライバーをちょっとうらやましく思ってる?
とんでもない。事実はその真逆だ。
空冷ワーゲンのオーナーはそのとき、追い越し車線をぶっ飛ばす最新ドイツ車のドライバーたちを「憐れみの目」で見ているのだ。
「あーあ、あんなに飛ばしちゃって……行動が貧乏くさいっちゅうかなんちゅうか(苦笑)」
とまで思っているかどうかは人それぞれだろうが、基本的には「追い越される自分=時間をぜいたくに使えている自分」のことを好ましく思っていることだけは間違いない。
この感覚が、筆者が言うところの「負けるが勝ちの快感」である。