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【秘訣その2】質問する

 先に述べた、ボブ・パイク氏の法則によれば、8分以上の講義では「受講者を参加させる」ことが必要となってきます。スピーチやプレゼンに参加させる上で一番取り入れやすいのは、聴き手に質問し、答えてもらうことです。

 とはいえ、質問にはいくつかの注意が必要です。ここで例を挙げてみましょう。私は以前、ある著名なコンサルタントの「出版ノウハウ」を教えてくれるセミナーに参加しました。開口一番、コンサルタントが参加者に質問をします。

「実は、出版に必要な心構えはそれほど多くありません。何ヵ条くらいだと思います?そこの方(ある参加者を指して)いくつでしょうか。(隣の方を指さして)あなたは?(さらに隣へ)あなたは?」

「多くないと言われているから、きっと少ないのだろう、でも1つや2つではないだろうし、あてずっぽうで答えるか?でもこの人、なんとなく威圧感あるし、周りの人も見ているし、間違ったら恥ずかしいし……」という心の声が、私には聴こえました。

聴き手への質問は極めて有効だが、不要な緊張を与えると逆効果

 答える人も、一様に自信がなさげです。場の空気は、じわじわと緊張感を増していきました。話し手がアイスブレイクのつもりで問いかけても、これではかえって「アイシング」です。話し手に不要な緊張感を与えるようでは、聴き手との心理的な距離は開いていき、話への興味も薄れていきかねません。

 質問のコツは次の3つです。

(1)誰でも安心して答えられる質問をする。特にスピーチ冒頭での質問は、聴き手に参加感を持ってもらうことが目的です。この場合、「正解や間違いがある」「人に笑われたり、恥ずかしい思いをしたりする懸念がある」などの質問は、注意深く避ける必要があります。

(2)クローズドクエスチョン→オープンクエスチョンの順で行う。最初は、Yes/Noで答えられる、または選択肢のある質問とし、聴き手に選んでもらうだけの質問にしましょう。

(3)集団→個人の順で質問する。前述のセミナーの例のように、いきなり名指しで問いかけられた場合の心理的なプレッシャーは、かなり高いものとなります。まずは全体に対して質問を行い、ある程度答えやすい雰囲気をつくってから、個別の質問に移りましょう。

 たとえば私の場合だと、研修の最初のほう、自己紹介のときにまず質問を織り交ぜるようにしています。私は劇団四季で仕事をしていたことがあるので、最初は「劇団四季という名前をご存じの方、どのくらいいらっしゃいますか。ご存じの方、手を挙げていただけますでしょうか」という質問から入ります。劇団四季についてはたいていの方がご存じのため、ほぼ100%の方が自分ごととして手を挙げることができます。

「では、劇団四季のライオンキングをご覧になったという方、どのくらいいらっしゃいますか?」と再度全体に尋ねます。大都市の一般的な企業研修であれば、ゼロということはまずありません。多いときには3割程度の方が手を挙げてくださいます。

 そして、個別の質問に移ります。手を挙げた方に対して、「何か印象に残っている場面はありますか」など。観ていた方だと、何らかの答えは返していただけるので、そこで少しだけ会話を行います。ここでも質問に配慮をしています。

 たとえば「どの場面が印象に残っていますか」と尋ねると、いずれかの場面の印象は残っているはず、という前提が付与され、「実は何も印象に残っていない」という答えが許されなくなります。どう答えても構わない尋ね方をすべきです。

手あげ式の質問で有効な「グー、チョキ、パー」

 聴き手によっては、特定の人が手を挙げるということに対して抵抗を感じている場合もあります。その場合は、もっと回答のハードルを下げねばなりません。たとえば高校でのキャリア授業などのときは、そんな雰囲気を感じることがあります。

 その場合は「少し教えて欲しいのだけど、みんな就職についてどのくらい興味や関心がありますか。結構関心があるという人はパー、まあまあ関心があるという人はチョキ、あまり考えたことがないという人はグーを出してください」と尋ねます。

 この問いだと全員が手を挙げることになり、恥ずかしさは減ります。なおかつ自己開示も比較的容易にすることができるようです。パーが多い場合は「じゃあ今日は頑張ろう!」と応じ、グーが多い場合は「じゃあ今日は始めの一歩にしよう!」と働きかけることからスタートできます。

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