そんなローカルアイビーファンが涙なくしては観れない映画、それが今回ご紹介する『ハッピー・ロブスター』(’59年。アメリカ)。
舞台は1950年代のメイン州の片田舎。2人の子どもを抱えてロブスターの養殖業を営むシングルマザーのジェーン(ドリス・デイ)とそれを陰で支え、ジェーンに密かに想いを寄せる友人の弁護士ジョージ(ジャック・レモン)。この2人がロブスターの輸送を巡って鉄道会社とスッタモンダするコメディ。なんたってジャック・レモンとドリス・デイの最強コンビのコメディですから。おおらかで元気が出ること間違いなし!
しかも舞台は、戦後の繁栄の結果としてアメリカ中流階級の消費の需要が高まった“1950年代の豊かなアメリカ”東部の片田舎。「このポンコツ!」とこぼしながらロブスターを運搬するジェーンの愛車はウッドパネルの’50年型フォードのステーションワゴンですからね。対するお人よしで堅物、恋愛ベタなジョージの愛車は’51年型のスチュードベイカーのコンバーチブル! デトロイトの自動車産業がブイブイいわせていたころの名車が次から次へと登場します。それだけでも見応えがあるんだけど、ジョージとジェーンの飾らないけど豊かなアメリカを象徴するようなコンサバスタイルは、今見ても魅力的だ。
いや、どうってことないんですよ。例えばジェーンが養殖場でロブスターを扱うときの格好は、赤いギンガムチェックのシャツにデニム、それにケッズのチャンピオンオックスフォード(東海岸はケッズ。西海岸はコンバースね)と、普通といえば普通なんだけど、日本だったらジャージに長靴でしょ! さらにジョージが機関車に石炭をくべるときの格好は、グレー霜降りのスウェットシャツにオフホワイトのコットンパンツ(しかも尾錠付きのコテコテアイビーモデル!)、それに白のキャンバススニーカーと、これもまた普通なんだけど、これが日本ならもっと汚れてもいい作業着でしょ!
弁護士として働くときのジョージはベージュのコットンスーツに白のボタンダウンシャツ。それに黒のニットタイと端正なアイビールック。休日、ボーイスカウトのリーダーとして子どもたちを指導する際は、カーキ色のボーイスカウトユニフォームの上から真っ赤なドリズラーを羽織ったりして、普通だけどカッコいい。
これがさ、青柳師範代のお洒落道場のファッションスナップとかキメて装う日ならわかるけど、ごく日常の気取らないスタイルというところが昔のアメリカの豊かさとして魅力的に映るんだよねぇ。
ところで、劇中にロブスターのエンブロイダリーは一つも登場しませんが、産地ということで失礼。
今月のシネマ
『ハッピー・ロブスター』(1959)
[MEN’S EX 2019年6月号の記事を再構成](スタッフクレジットは本誌に記載)