「ラ コリーナ近江八幡」にほど近い西の湖にて。湖岸にはヨシが群生し、時代劇の格好の撮影場所となっている。中井さんも何度かここでの撮影を経験。4〜11月には手漕ぎ遊覧船も楽しめる。
時代劇でもお世話になる掛け替えのない場所
また近江八幡は、近江商人の発祥の地でもあり、昔から商売が盛んであったことに加え、近江兄弟社を起こし、メンソレータムを日本に紹介したアメリカ出身の建築家、ウィリアム・メレル・ヴォーリズさんが愛し、暮らした街としても知られている。そこここに、ヴォーリズさんが手掛けた西洋建築が残されており、古い街並みと調和しているのが趣き深い。
今回、この好貴心で滋賀を取り上げたいと思った大きな理由は、この近江八幡で、あるご家族との出逢いがあったからこそなのである。彦根藩士役を演じた『柘ざ くろ榴坂ざ かの仇討』という映画のロケの際に、ご紹介を受け知り合ったのが、「たねや」という和菓子の老舗のご家族。古典的な和菓子の美しさ、餡の美味しさも際立ち、多くの茶事などでも重宝される、日本を代表する菓子店。皮と餡とを別々に包装し、食べる直前に挟む最中を始め、実に発想豊かなお菓子作りに挑戦している。そうかと思うと、洋菓子部門の「クラブハリエ」も、バームクーヘンと共に、若い世代からの圧倒的な支持を受けている。
昨年、『雲霧仁左衛門』という作品の撮影で、近江八幡の八幡堀と西の湖に伺った。その折、たねやの会長である山本德次、有子ご夫妻より、是非見てもらいたい場所があると、ご紹介を受けたのが、新たに展開が始まったラ コリーナ近江八幡という施設。そのときは、ちょんまげスタイルであったため、施設内に入ることは叶わなかったが、後日改めてご家族にご案内を受けた。
広大な土地に、自然と一体化した建物。その中では、焼きたてバームクーヘンはじめ、ここでしか食べられないお菓子も数々売られているのだが、それ以上に、水田を含め、余白の土地の多さに驚かされてしまった。乗り物アトラクションなどはないのだが、フードガレージと名付けられたガレージ風のスペースには、2階建てロンドンバス、ヴィンテージカーや希少なサーフボードなどがディスプレイされ、ここでマカロンなどの洋菓子が販売されている。
私には、このラ コリーナが、自然再生工場にさえ見えてきた。この広大な施設で、「たねや」というお菓子屋さんは、一体、何をしようとし、何所へ向かおうとしているのか? 過疎化が叫ばれる日本において、地方都市が再生していく、大きな手がかりになるかもしれない。社長の山本昌仁さんと対談させて頂きながら、その生き方、考え方をお届けしようと思う。
近江八幡の名前の由来となった日牟禮八幡宮のすぐ横にある「八幡堀」は、時代劇のロケでしばしば使われる場所。以前、埋め立てて駐車場にする案が浮上した際、地元の青年や若い経営者たちの尽力で、保存・整備が進められ、古くからの姿を今にとどめている。
[MEN’S EX 2017年12月号の記事を再構成]
題字・文/中井貴一 撮影/熊澤 透 ヘアメイク/藤井俊二 構成/まつあみ 靖