ついにユニオンワークスを創業
オールソールの仕事を2年半から3年ほど勤めたのち、1994年、28歳半ばで中川さんは靴修理の会社を退社する。そして29歳のとき、いよいよユニオンワークスが立ち上がった。最初は東京・世田谷において、自宅と工房を兼ねたマンションの一室からのスタート。しかし、立ち上げてはみたものの、インターネットもない時代である。いかに仕事を獲得するかが、中川さんの最初の試練となる。
「営業の仕方がわからないのはネックでしたね。ご近所に飛び込みで営業したり、ポスティングをしたりしましたよ。あまり反響があったわけではないけれど、注文はゼロではなかった。以前は工場勤務だったのでお客さんと対峙することがありません。でも、ユニオンワークスではお客さんと会話をしないことには仕事が始まりません。ご予算に応じた直し方を提案して、修理のプロセスを説明。仕上がりを見たお客さんが出来栄えに感動してくれたときはすごくうれしかったのを覚えています。自分の仕事で他者をハッピーにできると気付いたし、目の前でお客さんが喜ぶ姿を見るのは初めての経験だったのです」
コラム:シュナイダーブーツの出来栄えに感動
初期の中川さんのエピソードの中で印象的なのがシュナイダーブーツとの出会い。仕事に勤しむ中川さんの元に、ある日、岡山県のショップから見たことのないブーツの修理依頼が届いた。それがシュナイダーブーツ。
中川さんによると、当時のシュナイダーブーツは中敷きに名前も入っていなかったので、正体がわからない謎の一足だったそうだ。
「バラしてみたら、これが実にすごい。接着剤を一切使っていないんです。そんなつくりの靴は見たこともありませんでした。はっきりとは覚えていませんけれど、おそらく、送り主の方にお電話して、シュナイダーブーツのことを教えてもらったんだと思います」 依頼から1〜2年後に、中川さんは英国のシュナイダーブーツの工場を訪れ、そのすごさを生で感じることになったのだ。
英国訪問の一番の目的は修理用の部材探しにあった。それまで靴修理の部材は浅草界隈で手に入れるのが一般的だったが、やはり中川さんは英国の本場ものが欲しい気持ちでいっぱい。
「自分の興した仕事で英国に行けるなんて、本当に夢のようでした。英国では『わざわざ、日本から来たのか!?』と好感を持ってもらえて、コーヒーにビールまで飲ませてもらって、本当によくしてもらいました。肝心の部材も欲しいものを伝えると、あれこれと手伝ってくれるし、まるで宝探し。最初の英国出張以降、年に一回は出かけています」