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佐向 大さん、光石 研さん(写真2点)

愛すべきリーダーとの最後の日々を胸に、前へ

ベテラン俳優と新進気鋭の映画監督、このふたりを引き合わせた人物がいた。今年2月に急逝した俳優・大杉 漣さん。主役の教誨師役を演じ、自身初のプロデューサー役も担っていた大杉さんは、正式なオファーの前に、すでに光石さんに出演を打診していたという。

光石「確か、ドラマ『バイプレイヤーズ』の第1シリーズを撮っていたときに、『もうすぐ映画を撮るから、研ちゃん、出てよ』って。どんな内容かもわからなかったけど、『ぜひお願いします』って返事をしました」

佐向「まだ本決まりでない段階なのに、大杉さんが『研ちゃん、出てくれるって』と(笑)。僕は過去の作品のご縁で大杉さんの事務所に所属したんですが、映画を作ろうという計画は何年も前からあって、何度も脚本を書いては、大杉さんと話し合ってきたんです」

難しいかもしれない。でも、こういう映画は、絶対に必要だ。教誨師を主人公とする本作を提案したとき、大杉さんはこう言ったという。

佐向「死刑と向き合うことって、やっぱり避けたがるのが普通でしょう?リスクがあるし、気軽に演じられる役でもない。それでも『必要だ』と言ってくださったんですね。僕自身、死刑制度というまったく知らない世界について、何とか知りたいと思った。脚本執筆には1年ほどかかりましたが、大杉さんはずっと待っていてくれました」

死刑囚は決して特別な存在ではなく、あくまでも日常を生きる私たちと地続きの存在である—作品に込めた思いは、現場でも発揮された。死刑囚と対峙する教誨師は、彼らにとっては、いわば人生の終幕に寄り添う最後の伴侶。それぞれに異なる事情と理由を抱えた6人と向き合う生身の男を、大杉さんはときに優しく、ときに怒りと迷いをあらわにしながら演じた。光石さんとの撮影は、信じられないほどの短時間に、高い密度で行われたという。

光石「待合室のようなところで簡単にリハーサルをして、そのまますぐ撮影に入った。いきなり(カメラを)回すというのは、ないことではないけれど、やっぱりものすごく緊張する。お互いを信頼していないとできないことなんです。でも、実に見事に……。気持ちよく、スピーディに撮れました。
僕の演じた人物がどんな罪を犯したのか、台本に詳しくは書かれていなかったけど、僕からもとくに質問はしませんでした。知ったからできるというわけでもないような気がしたし、常々、何を演じるにしても型通りにやるのはあまり好きじゃない。ヤクザだからこう、殺人犯だからこうというのではなく、まずは生身の人間としてどうか。とくに、明日にもお声がかかってあの世に行かなきゃいけないという状況に身を置いている人は、ヤクザだろうが何だろうが、その人個人になっていくんじゃないかと思ったんです」

光石さんと大杉さんの出会いは、光石さんが30代に入った頃。テレビドラマの現場で出会ってから、この春放送されていた『バイプレイヤーズ?もしも名脇役がテレ東朝ドラで無人島生活したら?』までのおよそ四半世紀の付き合いの間、その印象は「まったく変わることがなかった」と言う。

光石「?さんはいつも元気で、冗談を言いながら、周りに目を配ってくださって……。『バイプレイヤーズ』では、出演者の皆が自分自身の役をやっているわけですから、アイデアというか、『こんなセリフ、俺は言いたくない』みたいな、オヤジのわがままがたくさん出てくるんですよ(笑)。それでも、たしなめるべきところはきちんとたしなめてくれる、そういう人でしたね。もともとサッカーをやっていたからか、チームをものすごく大切にしている。そのことは、どの現場でも感じました」

根っからのリーダー。「自分のところだけを気にするわけじゃなくて、絶えず全体を眺め、見渡して意見を言ってくれた。でも、こちらが言えば任せてもくれる。そういうコミュニケーションが取れたからやっていけたんだと思います」と、佐向さんも頷く。

誰にとってもかけがえのない大事な存在だった大杉さんは、公開の日を待たずに世を去った。が、その思いは、遺した作品の中に確かに息づいている。そして、関わった人々の中にも。

佐向「初号(完成作の最初の上映)のとき、とくに感想を言われなかったので、近づいていって『どうですか』と尋ねたら、『早く次をやろう。考えてる?』って言われたんです。えっ、もう次ですか? って(笑)」

光石「照れくさかったんじゃないの? 自分の主演作だし」

佐向「そうですよね。まだぜんぜん客観的には観られないだろうし、ああすればよかった、こうすればよかった、って……。でも、聞かなくてよかった、ということでもないんですが、すぐに次をと言われたことが、やっぱり僕は素直にうれしかったです」

あまりに突然だったがゆえに、「まだ整理がついていなくて、大杉さんのことを公に語ることは難しい」と言う光石さん。しかし、最後にこんな心境を打ち明けてくれた。

光石「監督も僕も、他の作品に関わった人たちすべてが、大杉さんの最後の現場に立ち会わせていただいたことで、託されたという思いがある。その責任は、いつまでも心に置いておかなくちゃいけないだろうなと思うんです」


またやろう。いつか会おう。その約束は、作品となってスクリーンや画面に映し出され、観る人に、仲間たちに届く。何度でも、そして、永遠に。

<b>佐向 大さん</b><hr>知るのは怖い。それでも知りたい。その思いを受け止めてくれた人がいた

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知るのは怖い。それでも知りたい。その思いを受け止めてくれた人がいた

<b>光石 研さん</b><hr>「型通り」は好きじゃない。演じるには、まず生身の人間を作ること

光石 研さん
「型通り」は好きじゃない。演じるには、まず生身の人間を作ること

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