大手が経営する大型スーパーの進出で、地方都市の商店は、地元に根付いた専門店でさえも、暖簾を下ろさなければならない状況が続く。盛岡で3代目となる靴店の後継者が打って出たのは、ヨーロッパの良質な靴や店の空間を通して、心地よさを演出するイタリア仕込みの方法だ。

今月のいい工場(ショップ)
岩手 – 菅原靴店

教えてくれる人
ファッションジャーナリスト
矢部克已さん
メンズファッション誌編集部を経て渡伊。本場の服飾文化を吸収して帰国。ピッティ・ウォモを欠かさずに取材。「ファッションの現場」が気になるため、この連載を企画。
ヨーロッパ最良の靴を地元にしっかりと伝え蘇った、盛岡の老舗
日本で唯一販売する靴も揃えた、挑戦的な提案
JR盛岡駅からゆっくり歩いて約15分。北上川を渡った風景の先に、盛岡市大通り商店街がある。見慣れたチェーン店が軒を連ねているが、程よく目立つ「菅原靴店」。モダンな自社ビルの1〜3階を占める。
【歴史】
「菅原靴店」の発祥は1890年。団子とかき氷を売る店から始まった。店の近くには、8軒ほどの映画館がいまも残る。
その当時、盛岡駅から散歩し、映画を観た後に団子やかき氷を食べて帰るという、デートコースを担っていた店だ。第2次世界大戦後、東北の農業が盛んになり、初代は八百屋に転身。農作業に適した長靴も店に並べると、飛ぶように売れた。1950年「菅原靴店」を創業。高度経済成長期。建設業が栄え、東京で仕入れた地下足袋を販売すれば、新日鉄釜石社長の目に留まり、大量の注文を得て店は大きくなった。2代目に受け継がれ、現在のビルに建て直した。