日本デニム界のプロフェッショナル、藤原 裕さんに訊く デニムの過去・現在・未来

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日本デニム界のプロフェッショナル、藤原 裕さんに訊く
デニムの過去・現在・未来

日本のヴィンテージデニムブームから現代の再評価まで、藤原 裕さんの長年に及ぶキャリアからの考察を軸に、現在の市場動向や文化的価値、さらに、藤原さんが予測する未来像を取材した。

一着一着に時代や物語がある。これこそが “文化” であり “資産” です

藤原 裕さん

ベルベルジン ディレクター 藤原 裕さん

1977年、高知県生まれ。原宿のヴィンテージショップ、ベルベルジンのディレクターとして世界的視野でヴィンテージデニムの文化的価値を探究・発信。コレクターや業界人たちからの信頼も厚い。

ヴィンテージデニム、再評価の現在地を知る

かつてアメリカ労働者の作業着だったデニムが、ファッションの象徴へと昇華してから半世紀以上が経つ。なかでも注目を集めているのが“ヴィンテージ”と呼ばれる戦前から1980年前半頃までに製造されたジーンズ。日本の古着シーンを牽引してきた藤原 裕さんは、何度かのブームを経て今再び市場が熱を帯びていると語る。

「第一次とも呼べる大ブームのピークは’95~’97年でした。リーバイス®501XXやビッグEといった名作が、数十万~100万円超えの価格で売買され、原宿界隈の古着店には長蛇の列。雑誌が煽り、若者が群がり、まさに社会現象とも呼べるブームでした」と、当時を振り返る。

リーバイス®501XX
すべてのオリジン 不朽の名作、リーバイス®501XX
1950年代前半のリーバイス®501XX。その生地感、色落ち、匂いまでもが時代を宿す。本物が放つオーラは、現行では決して再現できない唯一無二の存在なのだ。98万7800円(ベルベルジン)

藤原さんが繰り返し強調するのは、ヴィンテージデニムがもつ“色落ちの個性”だ。

「インディゴは穿いた人の動きや生活の痕跡が生地に刻まれ独特の表情を生み出します。この偶然性こそが、一本ごとに異なるストーリーを宿すヴィンテージデニム最大の魅力です」

さらに、言葉だけでは伝わらないその奥深さを顧客に体感してもらうため、店舗陳列もデニムをラック吊りとして工夫している。まるで美術館のように、時間と身体が織りなす物語を体感させる文化的演出としても興味深い。

日本におけるシーンの成熟と愛好者の裾野の広がり

2000年代に入りブームは一旦、落ち着いたものの、その熱は地層のように堆積し、後の復興の土壌をつくり上げた。そして今、ヴィンテージデニムは再び脚光を浴びている。

「その背景の一つは価格の高騰です。何しろ’90年代に数万円で手に入った501XX が、今や数十万円~数百万円に達することも珍しくありません。これは希少性とともに、一本のデニムに宿る経年変化や歴史を、アートや時計と同様に芸術品のように捉える視点です。ヴィンテージデニムがもはや“文化的遺産”として認識され、投資対象として見なされる時代が到来しています」と藤原さんは指摘する。

さらに、こうした盛り上がりを後押ししているのが、イベント開催などによるシーンの可視化だと藤原さんは分析している。

「様々なイベントが開催される中でも注目されるのが『インスピレーション』と呼ばれる米国・LA 発の展示会。昨年から日本でも開催され、デニムをはじめとしたヴィンテージカルチャー全般を扱う国際的なプラットフォームとしても話題です」。

米国、L.A.で毎年開催される「インスピレーション」会場にて藤原さんと肩を組む主催者の田中凛太郎さん
米国、L.A.で毎年開催される「インスピレーション」会場にて藤原さんと肩を組む主催者の田中凛太郎さん。今年は東京・恵比寿で11月1、2日に開催予定。

ヴィンテージデニム市場は、これからどこへ向かうのか?

藤原さんは、今後の市場動向を次のようにみている。

「まず予測されるのは供給の枯渇によるさらなる価格上昇です。戦前や’50年代のオリジナルモデルは既に個体数が限られており、今後新たに市場で流通することはほとんどありません。特に、未使用に近い“デッドストック”は美術品同様に扱われ、資産価値はさらに高まることが予想されます」。

さらに藤原さんはこう続ける。「国際的な需要の拡大も見逃せません。今、ヴィンテージデニム市場には、韓国や東南アジアの若い世代が急速に参入。経済力を背景にした新興コレクターの存在が、価格を押し上げる要因となっています」。

一方で、近年密かに囁かされている未発掘の供給地があると藤原さんは言う。「米国の古着の多くはチャリティ団体などを経て、アジアやアフリカへ輸出されます。その集積地の一つがパキスタンです。膨大な衣類の山の中には米国ヴィンテージデニムが紛れ込んでいる光景も珍しくありません」。

現地でただの古着として扱われるなかに、実は数百万円以上の価値を持つヴィンテージが混ざっている可能性があるのだ。アメリカの作業着として生まれた一本のデニムが、今や世界中を巡り、投資と文化をつなぐ象徴となっている。未だ見ぬ次なるお宝の発見は、きっとまた市場を揺さぶり、そして私たちの想像力を刺激するに違いない。

リーバイス®501
リーバイス®501
1983年頃がリーバイス®501の米国製オリジナルで赤耳がつく最後の年。これ以前のデニムを藤原さんはヴィンテージとして位置付けている。裾をひと折りして穿くのが今の気分。


[MEN’S EX Autumn 2025の記事を再構成](スタッフクレジットは本誌に記載)
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