三ツ星シェフ、小林 圭が「食」を通じて見据える世界とは?

bool(false)
三ツ星シェフ、小林圭が「食」を通じて見据える世界とは?

フランスのミシュランガイドでアジア人として初めて三ツ星を獲得したシェフ・小林 圭氏。2020年3月の快挙以来、パリの「Restaurant KEI」は5年連続で三ツ星を獲得し続けている。

2021年には、老舗和菓子店の「とらや」とタッグを組み、御殿場に「Maison KEI(メゾンケイ)」をオープン。そして、今春、東京で立て続けに新たに3軒のレストランをオープンさせた。

まさに破竹の勢いの小林シェフだが、彼が見据えるのは「KEI」というブランドの確立であり、また、世界にそのブランドを知ってもらうことだという。

「今、まさに『KEI』というブランドを作っているところです。今回、東京に3店舗、お店ができましたが、まだまだ道半ば。御殿場のお店は少しずつイメージ通りになってきましたが、それでもまだ100%とはいいがたい。レストランって、料理が30%、サービスが30%、そしてお客様を含めた空間が40%なんです。ですから、それぞれのレベルをもっともっと上げていかないといけないと思っています」。

今回、東京に誕生したのは、「ザ・リッツ・カールトン東京」内の「Héritage by Kei Kobayashi(エリタージュ バイ ケイ コバヤシ)」、「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」の「KEI Collection PARIS(ケイ・コレクション・パリ)」、そして「とらや」と再びタッグを組んで銀座に出した「ESPRIT C. KEI GINZA(エスプリ・セー・ケイ・ギンザ)」だ。

それぞれ異なるキャラクターを持っており、その集合体こそが「KEI」なのだ。それはあたかも、フランスのメゾンブランドのようである。普段、自らが調理場に立つパリのレストランはオートクチュール。そこから派生したプレタポルテもあれば、コレクションラインもあるというわけだ。

その中で、「美食の研究所」と位置付けているのが「エスプリ・セー・ケイ・ギンザ」。「C」には「cuisine(料理・厨房)」「creation(創造性)」という意味を込めた。

「エスプリ・セー・ケイ・ギンザ」の店内
「エスプリ・セー・ケイ・ギンザ」のお店の中央に配されたダイナミックなオープンキッチンを目の前に、その日獲れた最高の食材を自由に楽しむような感覚で、アラカルトでお料理を楽しむことができる。

「シェフを含めたスタッフに伝えるのは、とにかく『美味しいものを作ろうよ』ということ。シンプルですよね(笑)。そもそも、素材には命がある。その命を我々はいったん預かっているんです。そこから、食材同士の新たな出会いや料理人の技術を加えていって、お皿に返す。その結果、お客様が感動を味わってくださったら、すごくいいなと思います。感動を脳に焼き付けてもらい、その思い出とともに生きていってほしい。それこそが、命ある素材を預かる料理人の使命だと思います。」

杉本昌久シェフ(写真左)

「エスプリ・セー・ケイ・ギンザ」の厨房を任されたのは、「メゾンケイ」でスーシェフを務めてきた杉本昌久シェフ(写真左)。各店舗にいるシェフたちをクリエイターと小林シェフは表現する。「私の役割はクリエイターである各シェフたちに、テーマとストーリーを伝えること。今年、今季のテーマはこれというように、自分が目指したい方向性を伝えた後は、あとは彼らがそれぞれの場所、空間も含めて、どのように成長させてくれるのかを見守るだけです」

石と木が調和した店内
石の文化といわれるフランスに対して、木の文化といわれる日本。ています。そんな日仏の文化を融合させるべく、石と木が調和した店内に。天井にあしらわれるのはヒノキ。
オマール海老のフライに、グリビッシュソースとキャビアを添えた「オマールブルー エビフライ ソースグリビッシュ キャビア添え」
「エスプリ・セー・ケイ・ギンザ」のシグネチャー料理。オマール海老のフライに、グリビッシュソースとキャビアを添えた「オマールブルー エビフライ ソースグリビッシュ キャビア添え」。
ワインセラー
カウンターとテーブルがあるホールへと続く廊下のワインセラーも圧巻。シェフソムリエを務める中島一希さんのもと、フランスを中心に780種類4500本が揃う。

アートに通ずる心を満たす料理を通じて、リュクスな存在を目指す

なぜ、人々はこれほどまでに小林シェフの料理に魅了されるのか。そこには、メゾンブランドとも似た、「唯一無二」のプレゼンテーション、そして、小林シェフの確固たる哲学が反映されているからであろう。

「また来るね、と言ってくれるお客様は大勢いますが、その中でも、実際に次、来てくださる方は限られています。お客様は常に新しいお店に行って、新しい体験をしているわけですから、お客様のほうが成長している。ちょっとでもいいから、その成長の一歩先を行けるように我々は努力しています。

食はある意味、お腹さえ満たせればいいわけです。にもかかわらず、あえて『ガストロノミー』という言葉がある。これはもうアートと同じ世界、存在なわけです。生きていくため必要かというとそうではない。それにもかかわらず存在しているのはなぜか。それは心を満たしてくれるからなのです。

実はレストランに来るまで、皆さん膨大な情報に触れています。事前にHPを見たり、料理の写真を見たり。いわばそれが五感に次ぐ、6つ目の感覚。事前情報をたくさん持ったうえで、レストランにきて、そこで初めて、料理を目と鼻で感じる。だからこそ、料理の見た目は大事にしようと言っています。そして、次にサービススタッフの説明を耳で聞き、料理に触れる。舌は一番最後です。ですから、その五感、もしくは六感までを含めて、刺激できるようなストーリーをどのように作るかを思案しています。一方で奥ゆかしさも大事。そうしたバランスを考えながら、お客様の心を満たしていかなければならないと思っています。」

シグネチャー料理二品目
シグネチャー料理二品目。軽く火を入れたトマトにアーモンドミルクのエスプーマを合わせ、仕上げにバジルのグラニテをかけて食す「アメーラトマトのサラダ アーモンドミルクとバジル」。

唯一無二の食の体験、それを我々はついラグジュアリーと表現したくなるが、小林シェフが目指しているのは、ラグジュアリーではなく、リュクスだ。

「リュクスという言葉には、独自性や唯一無二という意味が込められています。誰にも真似されることなく、自分たちだけが発信でき、それを周囲から評価される。それこそがリュクスだと思います。

自分が身にまとうものもリュクスなものでありたい。素材は同じでも、服はデザイナーの個性、クリエイティビティが形になって表れている。クルマも建築もクリエイターが自分の個性を出すことで、他の人が真似できないものを作り出している。そういうものを、大事にしていきたいと思っています。」

オーデマ ピゲの時計
リュクスなものとして、小林シェフの琴線に触れたのが、オーデマ ピゲの時計だ。「時間を知るだけだったら今やは機械式時計はいらないですよね。でも、人の手で入念に仕上げられた300数十個のパーツが緻密に計算されてケースに入っている。しかも、50年以上前にデザインされた形を受け継ぎながらも、常にアップデートされていっている。オーデマ ピゲの工房があるル・ブラッシュにも行きましたが、目の前の時計の精度や美しさ、完成度どれだけ高めていくか、どうやって世界一の作品を作るか、そうした職人たちの情熱を間近で見て、そこにロマンを感じました」。

今回、たまたま縁があって3店舗連続で東京に出店したものの、東京や日本にこだわっているわけではないと語る小林シェフ。「今までかかわりのなかった地域であっても、何か面白い食材、人、モノ、コトがあれば、どこでもいい。今は早く『KEI』というブランドを世界と対峙できる存在にしたい、力をつけたい、そう思っています」。

小林 圭
小林 圭(こばやし・けい)
長野県生まれ。長野、東京、フランスにて料理人としての研鑽を積む。渡仏後はジル・グージョン、ジャン=フランソワ・ピエージュ、アラン・デュカスなどトップシェフたちの元で学ぶ。特にパリの「アラン・デュカス・オ・プラザ・アテネ」では5年間スーシェフを務めた。2011年パリ1区に「Restaurant KEI」をオープン。2020年フランス版ミシュランガイドにてアジア人として初めて三つ星を獲得。

ESPRIT C. KEI GINZA(エスプリ・セー・ケイ・ギンザ)

住所:東京都中央区銀座7の8の17 虎屋銀座ビル11F
営業時間:17時30分~20時30分(L.O.)
定休日:日・月曜日
URL:https://www.maisonkei.jp/esprit_c/

2025

VOL.346

  1. 1
SmartNews
ビジネスの装いルール完全BOOK
  • Facebook
  • X
  • Instagram
  • YouTube
  • Facebook
  • X
  • Instagram
  • YouTube
pagetop