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良いクルマは自分の収まるべき場所を知っている

1967年に登場したトヨタ 2000GT
1967年に登場したトヨタ 2000GT。こちらは前期型となる。

Hさんは大いに満足した。けれども続くときには続くのが幸運というものだ。クルマ好きの神様はさらなるサプライズを計画していた。2台が揃ってしばらく経ったある日、普段は滅多に読まないカーセンサーでHさんはとんでもない情報を発見する。なんと東京の中古車ショップが前期型2000GTを“価格応談”で掲載していたのだ。中古車の検索など滅多にしないHさんだったが、その日たまたま2000GTを検索したらしい。実はショップの方も数日の限定で載せるつもりだった。これを運命と言わずしてなんと言おう?

早速Hさんはショップに電話する。とにかく見てみたい、見せてくれと頼み込んだ。ショップの社長も焦った。この手の希少なモデルの場合、冷やかしはもちろん、マニアによる単なる個体確認という場合が多く、本当に欲しい人を見極めることが難しい。それに今や世界的なコレクションアイテムとなった高額モデルだ。車体番号や所在地といった情報を悪用される恐れもある。店としても本当に購入できる客なのかどうか、アポイントを受ける前に見極める必要があった。しかもHさんは東京から500kmも離れた土地に住んでいる。確認する方法は限られていた。

ショップの社長は半ば諦めてもらうつもりでこう伝えた。「購入する意思が本当におありなら、すぐに前金を入れてください。見にきていただいて気に入らなければ返金します」。Hさんは言われた通りの額、決して少額ではない、をすぐに送金した。店もHさんの本気を知った。

実際に見に行ってHさんは再び驚いた。そこにあったのは以前、ロッキーオートで見た個体そのものだったからだ。さらにキレイな状態に仕上がっていたが、特徴的なポイントがいくつかそのまま残っていたのですぐにわかった。これは運命だ。そう感じたHさんは、なんとその前期型をも買う決心をしたのだった。

全てはこの2年間で起きたこと。Hさんも「まだ信じられないんですよ、夢の続きを見ているようなんです」と、3台がノーズを揃えたガレージを眺めて言う。もちろんこれだけの高額なモデルを買えてしまったのだから、それなりに資産を持っておられるのだろうし、購入金額はもちろん、その資金をどうやって工面したかなど聞く必要はない。ただ一つ、経験上これだけは言える。良い個体は良い人の元へと収まるべくして収まるものだ、と。

「世界遺産を預かっている気分なんですよ。できるだけ大事に乗って、維持して、次の方に渡す準備を楽しもうと思っています。幸せな人生ですが、責任もかなり重大だと思っています」。そう言って少年のように微笑むHさん。やっぱり良いクルマは自分の収まるべき場所を知っている。

文=西川淳 写真=タナカヒデヒロ 編集=iconic

<p>前期型のインテリア。ウッドなどが贅沢に用いられている。</p>

前期型のインテリア。ウッドなどが贅沢に用いられている。

<p>後期型の運転席周り。インテリアもデザインが変更されている。</p>

後期型の運転席周り。インテリアもデザインが変更されている。

<p>R 3000GTのインテリア。ウッドのインパネやステアリング、オリジナルタイプの7連メーターなどが採用されている。</p>

R 3000GTのインテリア。ウッドのインパネやステアリング、オリジナルタイプの7連メーターなどが採用されている。

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