レンジローバー史上で最高のコンフォート
はたしてBEVとして走るレンジローバーはブランド史上最高のコンフォートさをみせた。どこまでも厳かで懐深く、しなやかなシャシーの動きが手にとるようにわかり、しかも安定感に優れている。そんなレンジローバー特有のドライブフィールに“無音”の走りがとことん似合っていると思えたのだ。ひとたびその“静かなる快感”を知ってしまうと、どんなに心地よく回るエンジンであってもそのサウンドは無粋でしかなく、できるだけ掛かってくれるなと思ってしまう。レンジローバーはフェラーリやランボルギーニではないのだ!
3つのドライブモード=ハイブリッド・エレクトリック・セーブが設定されているが、充電を積極的に行うセーブモードでややざらついたパワーフィールを感じた程度(これはどんなPHEVに乗っても大なり小なり感じてしまう)。他のモードではエンジンとモーターの協調性はもちろんのこと、モーターからエンジンへの切り替え、もしくはその逆、要するに全体的なパワートレーン制御はどんな場面でも極めてスムースだった。
V8モデルに比べると少々穏やかな印象だ。ハイブリッドモードを使ってもここ一発の加速ではわずかに及ばないように思えた。とはいえエンジンとモーターとが互いに支え合って通常の利用なら十分に力強いと思える加速を生み出す。モーターはもちろんエンジンさえも黒子に徹しているからV8ほどの迫力こそないけれど、スムースさと扱いやすさでは勝っていた。確かにV8のエンジンサウンドと共に経験するパワフルさには抗えがたい魅力があるけれど、何度も言うように、レンジローバーのキャラにはさほど必要のない性質だとも思ってしまう。
そんなことより何より、私はレンジローバーの“落ち着き”が大好きだ。クルマの、ではない。運転していると自分が落ち着く。その感覚がいい。高速道路では自然と走行車線をマイペースで走っている。ドイツや国産のプレミアムブランドSUVではそうはならないだろう。レンジに乗っているとロールス・ロイスやベントレーといった英国の御用達ブランドと同じ気分を味わうことができるのだった。
文=西川淳 写真=タナカヒデヒロ 編集=iconic