楽しみ方も根づきつつある、日本で唯一の24時間レース

このニュルブルクリンク24時間レースをひとつの範とし、現在、日本で唯一開催されている24時間レースが、「富士SUPER TEC 24時間レース」。富士で最後に行われた24時間レースからおよそ50年を経て、年間7戦で争われているスーパー耐久シリーズの第1戦として2018年に復活。今年で6回目を迎えた。
スーパー耐久シリーズも、もとはジェントルマンドライバー(アマチュア)のための草レースだが、助っ人としてプロドライバーの参加が認められるなど、年々スピードも華やかさも増している。今年はニュル24時間のちょうど1週間後、5月27~28日にスーパー耐久シリーズ2023の第2戦として、富士SUPER TEC 24時間レースが開催された。
「富士SUPER TEC 24時間レース」の様子をチェック(画像6枚)
このレースを毎年取材していて感じるのが、欧米のようなレースの楽しみ方が日本にも根づきつつあるということ。正直にいえば、24時間レースをぶっ続けで見るなんてどだい無理な話である。それは世界中の観客も同じこと。特にニュルブルクリンクなどは、観客はスタートを見届たら、グランドスタンドから一斉にいなくなる。森の中にあるコースだけに、多くの人がコースサイドでキャンプをしたり、BBQしたり、ときには大型モニターまで持ち込んで傍らでサッカー観戦もしながら大いに楽しんでいる。夜明けに観戦スポットとして有名なコーナーをのぞいて、地面に並べられたビールの空き缶&瓶の数に、さすがは生産量も消費量もヨーロッパ最大のビール大国ドイツと、度肝を抜かれたこともある。そしてゴールが近づくと観客たちは一斉にグランドスタンドへ戻ってくる。完走したマシンとチームのすべてに大きな拍手を送るのだった。
富士SUPER TEC 24時間レースでも、富士スピードウェイの創意工夫や、そして地元である静岡県小山町の協力もあって、年々趣向が凝らされている。イベント広場では「ウルトラセブン」とのコラボレーションイベントや、各企業による「カーボンニュートラル科学館」など大人も子供も楽しめるイベントを実施。
土曜の夜には約200発の打ち上げ花火があがり、場内には移動型クラフトビール販売や屋台村を設営。またコースサイドではテント泊が可能となっており、手ぶらでBBQが楽しめるプランや、水素発電によるサウナ体験などが用意されていた。レースマニアじゃなくても家族や友人と楽しめる内容となっていた。
観客動員数は、予選を含めた3日間でのべ4万7000人。これは昨年を約9000人も上回る数字という。来年はきっともっと盛り上がるに違いない。

レースに関しては、2021年から導入された「ST-Qクラス」に注目が集まっている。これは自動車メーカーなどがこのレースを開発の場として活用し、先行技術開発なども行うというもの。いまトヨタが積極的に取り組んでいる“水素エンジン”の開発もここから始まったものだ。このST-Qクラスにはカーボンニュートラルの実現に向け、トヨタを筆頭に日産、スバル、マツダなどが、水素や合成燃料、バイオ燃料などを使った先行開発車で参戦している。後編では、このカーボンニュートラル燃料への取り組み、そして6月10〜11日にフランスで開催されたルマン24時間レースについても少し触れてみたいと思う。
後編に続く
文=藤野太一 写真=フェラーリ、富士スピードウェイ、日産自動車、SUBARU 編集=iconic