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「スーツに負けず劣らず、アントニオさん本人も魅力的でした。ナポリ人としては珍しく寡黙で、風格漂うオヤジといった感じなんですけど、実は女性好き(笑)。そういうところが仕立てる服にも表れるんでしょうね。一見非常にアンダーステイテッドなんですが、男の色気を醸し出すスーツなんです。特に、胸のボリュームやイセをたっぷり入れた逞しい袖、絶妙にラウンドしたフロントカットなどは絶品だと思います。妙な装飾性は全くなくて、着る人の本質的な格好よさを引き立ててくれる作風だと思いますね」

サルトリア ヤマッチを立ち上げた2010年前後には、パニコからの影響を色濃く反映させたスーツを仕立てていたこともあったという。

「先ほどお話ししたフロントカットもそうですが、肩線の入れ方も勉強になりました。皆さんご存じのとおり、ジャケットの肩は骨格に合わせて前方向にカーブさせるのですが、肩線は逆に後ろ側へ振るんです。そうすると、前後の身頃がバランスを取り合って包み込むような肩に仕立てられるんですね。つまり体がジャケットに当たらず、着心地のいい服になるんです」

サルトリア開業から10年余りが経過し、独自の作風を確立した小山氏だが、今でもアントニオさんへのリスペクトは抱き続けているという。パニコ東京店の店長を務めていた時代に、マエストロと撮影した笑顔の記念写真がある。それは少し色褪せて、今もサルトリア ヤマッチの作業台の傍らに虫ピンで留められている。「パニコは本当に偉大ですよね」という小山氏の言葉が、衷心からであることを物語る光景だ。



小山さん愛用のパニコスーツ
 

小山さん愛用のパニコスーツ
右はビームスがパニコのスミズーラ会を開催していた’90年代にオーダーした小山氏のファースト・パニコ。左は初めてナポリのアトリエを訪ねた際にパニコのストックから選んだヴィンテージ生地で仕立てた一着だ。


自身の仕立てにもパニコの薫陶が
 

自身の仕立てにもパニコの薫陶が
こちらは小山氏の作品。左は3年ほど前に仕立てたもので、ラペルのラインを少しだけカーブさせているのが特徴だ。右は10年以上前の作で、ハンティングジャケット的なデザインを取り入れている。オーダー価格はスーツ52万8000円〜、ジャケット41万8000円〜(以上サルトリア ヤマッチ)

作業台すぐそばの壁に飾られたパニコ氏との記念写真と記念品として作ったメタルボタン

左:パニコ東京店時代に顧客向けの記念品として作ったメタルボタン。「もったいなくて使えません」と小山氏。
右:作業台すぐそばの壁に飾られたパニコ氏との記念写真。こちらも宝物だ。

サルトリア ヤマッチ
小山 毅さん

サルトリア ヤマッチ 小山 毅さん

1970年生まれ。ビームス、パニコの東京店、ルビナッチの東京店、タイ ユア タイでキャリアを積み、2010年にサルトリア ヤマッチを開業。ナポリ仕立ての温もりを愛し、不完全の美しさを追求している。近年はビスポーク・カジュアルウェアにも注力。




[MEN’S EX Autumn 2022の記事を再構成]
※表示価格は税込み

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