>> この記事の先頭に戻る

伝統工芸によるプリントは一枚の“絵画”と呼ぶべき美しさ

M.E. 今回ご紹介いただくエトロのスカーフは、ヴィンテージに詳しい方からすれば意外なチョイスに思えるかもしれませんね。

西口 そうですね。いわゆるヴィンテージの定番アイテムとは少し毛色が違います。ですがクオリティ面からすれば、間違いなく名作ヴィンテージといえる逸品です。ちなみにこの一枚は個人的に特別な思い入れもあります。というのもこちら、私が大学生時代に、恩師から譲り受けたストールなんです。

M.E. それは大切な一枚ですね。それにしても、お洒落な先生!

西口 本当にお洒落な方でした。キートンのスーツやエドワード グリーンの靴を愛用していましたね。当時はクラシコイタリアブームの全盛期で、私もクラシックウェアに傾倒し始めた時期でした。「先生、格好いい服を着てますねぇ」などと話しかけているうちに親しくしていただき、食事に連れて行っていただいたりもしましたね。そしてある日、先生のワードローブから譲っていただいたのがこちらというわけです。

M.E. 素敵なエピソードですね。西口さんが大学生ということは1990年代後半。当時、エトロはどういう存在だったのでしょうか?

西口 唯一無二の色柄表現で注目を浴びていたのは今と同様で、すでに独自の立ち位置を確立していました。ちなみにこのようなプリントストールは当時、非常に珍しかったと記憶しています。ネクタイ生地のような光沢ある素材を使用したチューブラースカーフや、アスコットタイといった巻き物はありましたが、それらはどれもブリティッシュトラッドな趣が強く、こちらのようにさらりと巻けるようなものではありませんでした。色柄の雰囲気にしても、こういうものはほかでまず見かけませんでしたね。当時のファッション誌を見ても巻き物はあまり載っていませんでしたし、先生以外に周りで身に着けている人もいませんでした。

M.E. 今ではスタンダードアイテムになりましたが、当時男性用のストールというものは珍しい存在だったんですね。ちなみに、どんなコーディネートをしていたのですか?

西口 学生ながらクラシコイタリアに心酔していましたので(笑)、イザイアのグレーフランネルスーツなどに合わせていました。足元はチャーチのチェットウインドでしたね。

M.E. 学生離れした渋さですね(笑)。でも、今も通用しそうなコーディネートです。ところで先ほどおっしゃっていた「クオリティ的にも名作」といえる理由はなんですか?

西口 それはプリントの手法にあります。表面と裏面を見比べてみてください。ほとんど色合いに差がないでしょう? これは手仕事によるシルクスクリーンでプリントが施されている証。現在は効率化のため、ほとんどのプリント生地がインクジェットプリンターによる機械染めに置き換わっています。一瞬にしてプリントを施すことができますが、インクが生地に浸透しにくいため、裏を見ると下地が見えて白っぽくなってしまうのです。近年はプリンターも随分進化して、それも解消しつつあるのですが、やはりシルクスクリーンの染まり方には一歩及びません。それに、表側の発色もシルクスクリーン独特の深みと味があり、これもまた大きな魅力となっています。

M.E. スカーフは巻いたときに裏側も結構見えるので、重要なポイントですね。エトロの複雑な柄とも相まって、非常に味わい深いです。

西口 そのとおりですね。シルクスクリーンは版画の技法として知られていますが、まさにこれは一枚の絵画といえるでしょう。シルクスクリーンは一色ごとに版を分け、それを何層にも重ねることで色彩を表現していきます。この複雑な色柄を表現するのに、いったいどれほどの手間と職人技が費やされているのか……そんなことを考えると、思わず胸が熱くなりますね。

肩の力を抜いてさらりと合わせると洒脱

M.E. そのお気持ち、よくわかります。モノの良さをご説明いただいたところで、現在の視点から見た活用法についてもお伺いします。以前はクラシコイタリアに合わせていたとおっしゃっていましたが、今ならどのようにスタイリングしますか?

西口 かつてはビシッとドレスアップした装いにこそ合うアイテムだと考えていましたが、今はもう少し柔軟に捉えたいところですね。ドレス&カジュアルのミックスコーディネートにも好相性だと思います。今回はスーツにダッフルコートというスタイルに合わせましたが、バブアーのオイルドジャケットにサラリと巻いても格好いいと思いますし、ジーンズにニットといったシンプルなカジュアルスタイルにプラスしてもいい感じだと思います。自分自身が年を重ねたこともあって、こういうエレガントなアイテムを肩の力を抜いて合わせるのが今の気分ですね。

M.E. なるほど。ところで少々話は変わりますが、西口さんはこのスカーフ以外にもエトロのアイテムを身に着けていらっしゃいますよね?

西口 そうですね。ポケットチーフも何枚か持っています。

M.E. クラシックなイメージが強い西口さんのチョイスとしては少々意外にも感じるのですが、エトロの魅力とはどういったところですか?

西口 クオリティが高いこと、そしてほかに真似できない独自性があることはいうまでもありませんが、ブランドの立ち位置が好きということもありますね。世界的に知られるラグジュアリーブランドですが、いわゆるスーパー・ビッグメゾンとも違う世界観に魅力を感じます。だからこそ、私が大好きなベーシックアイテムにもすんなりと馴染んでくれるのかもしれませんね。

M.E. なるほど、ごもっともですね。今回も大変勉強になりました!

<p><b>シルクスクリーンの証は“裏”に</b><br />
「向かって左側が表、右側が裏ですが、インクがしっかりと浸透して裏まで美しく染まっています。これがシルクスクリーンの証。最先端のプリンターでも、なかなかこうはいきません」</p>

シルクスクリーンの証は“裏”に
「向かって左側が表、右側が裏ですが、インクがしっかりと浸透して裏まで美しく染まっています。これがシルクスクリーンの証。最先端のプリンターでも、なかなかこうはいきません」

<p><b>端の巻き縫いも美しい</b><br />
「端は巻き縫いで処理されていますが、これがまた美しい。これ以上ないほど細く巻かれているため、非常に繊細でエレガントな印象です。プリントだけでなく作りもいい一枚ですね」</p>

端の巻き縫いも美しい
「端は巻き縫いで処理されていますが、これがまた美しい。これ以上ないほど細く巻かれているため、非常に繊細でエレガントな印象です。プリントだけでなく作りもいい一枚ですね」

<p><b>渋さと色気を兼備した色柄</b><br />
「素材はシルクウールで、ほのかな光沢も湛えています。黒、茶、緑などで構成されたペイズリー柄は、シックでありながら独特の色気も感じさせます。これぞエトロの表現力ですね」</p>

渋さと色気を兼備した色柄
「素材はシルクウールで、ほのかな光沢も湛えています。黒、茶、緑などで構成されたペイズリー柄は、シックでありながら独特の色気も感じさせます。これぞエトロの表現力ですね」

<p><b>同系色・柄違いで着こなしに奥行きを</b><br />
すべてブラウン系で揃えているが、コートはヘリンボーン、スーツはチョークストライプ、ストールはペイズリーと3柄を重ねてコーディネートに奥行きを持たせている。控えめさとメリハリを両立したバランスがなんとも巧い。</p>

同系色・柄違いで着こなしに奥行きを
すべてブラウン系で揃えているが、コートはヘリンボーン、スーツはチョークストライプ、ストールはペイズリーと3柄を重ねてコーディネートに奥行きを持たせている。控えめさとメリハリを両立したバランスがなんとも巧い。

<p><b>靴は今季デビューの注目ブランド</b><br />
ローファーは「WH+N」という新ブランド。坪内 浩氏と干場義雅氏による「WH」と西口氏のコラボによって生まれたものだ。乗せモカで甲をスッキリと仕上げたデザインは、どこかヴィンテージテイストも薫る。2月中旬発売予定。</p>

靴は今季デビューの注目ブランド
ローファーは「WH+N」という新ブランド。坪内 浩氏と干場義雅氏による「WH」と西口氏のコラボによって生まれたものだ。乗せモカで甲をスッキリと仕上げたデザインは、どこかヴィンテージテイストも薫る。2月中旬発売予定。

  1. 2
3
LINE
SmartNews
ビジネスの装いルール完全BOOK
星のや
  • Facebook
  • Twitter
  • Instagram
  • LINE
  • Facebook
  • Twitter
  • Instagram
  • LINE
pagetop