走りは旧型より洗練されているが
最上級グレードZXのガソリン車とGRスポーツのディーゼル車に試乗した。人気という意味ではZXとGRスポーツが双璧をなす。特に後者は東京から京都までロングドライブを試みた。
性能や機能よりも驚かされたのが、その人気ぶりだった。とにかくいろんな場所で声をかけられた。特に若い男性からの注目度が抜群で、高速道路のPASAやガソリンスタンド、コンビニエンスストアなどに停めておくと、必ずと言っていいほど小さな人だかりができていて、しかも笑顔で話しかけられる。ランクルがこんなにもフレンドリーなクルマだったとは! オーナーでもないのに妙に誇らしい気分になってしまった。
取材車両には、果たして未だに抑止効果があるのだろうかと思うほど古典的な盗難防止グッズが常備されている。指紋認証などこれまでにない盗難防止機能が備わるとはいうものの、“念のため”ということなのだろう。この業界に30年間はいるけれど初めての経験。ランクル300の人気ぶりを表す困ったエピソードの一つだけれど、乗り出してしばらくは後をつけてくる不審車がないかちょっと気になってしまったのも事実。何だかこちらが尾行を気にする犯罪者のような気分である。
乗ってみると、どうか。以前に比べて確かに良くなった。特にGRスポーツはオンロードをより重視しており、高速道路でのドライブフィールも悪くない。進路変更で上半身がぐらつくような感覚は薄まったし、コーナーの続く場面でも重量を感じて不安になるようなこともない。全般的に言ってZXに比べると乗り味のクロカン臭さは薄め。
比べてZXには不満があった。旧型に比べてマシとはいうものの、街乗りでは妙に共振するポイントがあって乗り心地悪さを払拭することはできなかった。乗り出した瞬間こそ旧型より良くなったと思ったが、50km/h前後で早くも下半身にバタつく印象があって、微妙なバイブレーションが常に身体へと伝わってくる。乗っていて疲れてしまうのだ。これが道なき道を走破する王者のライドテイスト、などと納得できる向きには何も言わない。たとえばメルセデス・ベンツの旧型Gクラスのような乗り味に慣れた人なら問題ないが、最新のモノコックボディSUVに親しんだ人には辛いと思う。GRでも基本は同じで、街中でバタついた上に70km/hあたりでももう一度バタバタ。タイヤのタッパをしっかり感じさせるドライブフィールは昔ながらのクロカン四駆そのものだ。
いずれも新開発というディーゼルV6とガソリンV6の両エンジンにも注文がある。ランクル用としてはこれで十分なのかも知れないけれど、燃費や環境性能への世間的な要求レベルはもちろん、最新の内燃機関フィールの水準にも届いていない。このあたり、メインマーケットが道路インフラや環境的にみて厳しい地域であることが影響しているのだと思う。裏を返せば “世界のサバイバルカー”としてランクルは世界に君臨している。
トヨタ ランドクルーザーのディテールをチェック!(画像5枚)
旧型よりも全体的に走りは洗練された。とはいえ、それはランクル界に限っての話である。世界を見渡せば無骨さやトラック風味が売りだったランドローバー ディフェンダーはモノコック化で驚くべき乗用車フィールを手に入れ、ランクルと同じラダーフレームのままのキャデラック エスカレードは一層ラグジュアリーな乗り味を手に入れている。ランクルは確かに孤高の存在。そこに価値を認めるかどうか。数年待ちの辛抱と秤にかけてみて欲しい。
文=西川淳 写真=トヨタ自動車 編集=iconic