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中庸の魅力が光る“白米”のようなパンツ

M.E. 大好評のヴィンテージ連載、第3回はチノパンがテーマです。

西口 今回はU.S.ARMY、つまりアメリカ陸軍で採用されていたチノパンをご紹介します。多くのブランドがオマージュを捧げるアイテムだけに、デザイン自体は見慣れているかもしれませんね。

M.E. 確かになんとなく見覚えはありますが、詳しく掘り下げていくとかなりディープそうですね。カーゴパンツだと米軍・英国軍・フランス軍・イタリア軍など各国のものが知られていますが、チノパンに関してはどうなんでしょうか?

西口 チノパンの発祥は英国軍といわれていますが、ヴィンテージウェアとしてはアメリカとフランスが圧倒的に有名ですね。なかでもU.S.ARMYのものは、1941年に生まれた「M―41」、その後継型「M―43」、「M―45」などがよく知られています。これらは第二次世界大戦期に着用されたものですが、今回ご紹介するのは’60年代のミリタリーチノになります。前述のモデルよりも若干細身のシルエットが大きな特徴ですね。

M.E. なるほど。大戦期のチノパンだとダボっとしてラギッドな印象が強いけれど、’60年代のものならスッキリして穿きやすい。ゆえに大人のヴィンテージ入門としておすすめというわけですね。

西口 そういうことですね。もちろんミリタリーパンツなので、今のチノパンのようにスリムではありません。股上も、現在の感覚からするとかなり深めに感じられるでしょう。ですが実際に穿いていただくと、ワイドだけれど非常に美しいシルエットであることがわかるはずです。裾に向かって若干テーパードしているので、ルーズな印象には見えません。

M.E. 確かに西口さんが着用されている写真(次写真)を見ると、凄く綺麗なラインを描いていますね。

西口 そうですね。ヘビーウェイトなチノクロスなので、シルエットが美しく出やすいということもあると思います。ちなみに、穿き心地がとてもいいところも個人的には魅力に感じていますね。腰周りの収まりが非常によいのです。ウエストを横から見ると、背中側に向かって若干高くなるハイバック仕様になっていて、これが穿き心地のよさに繋がっていると思いますね。

M.E. ドレスパンツにも通じる仕立てですね。ところでシルエットが美しいということは、コーディネートもしやすいということでしょうか?

西口 はい、汎用性にも優れています。先ほどお話ししたように若干テーパードしたシルエットですから、スニーカーからスエードシューズのようなものまで、様々な靴と合わせられます。ジャケットとも相性がいいですね。ヴィンテージならではの味わいがありつつ、“いかにも古着”という感じではないのがこのパンツの魅力だと思います。シルエットもデザインも極めて中庸で、それゆえに合わせるアイテムを選ばない。白米のような洋服ですね。

M.E. う~ん、そう言われるとますます欲しくなってきます。ちなみに、こちらのチノパンは昔から愛用されているアイテムなんですか?

西口 今回お持ちしたのは10年くらい前に購入したものですが、初めて入手したのは高校生のときでしたので、随分長い付き合いということになります。当時も今と同様にヴィンテージブームが盛り上がっていたのですが、ミリタリーチノに関してはそれほど人気がなかったですね。みんなヴィンテージジーンズに目が向いていました。当時はアメカジ少年だったので、スウェットなどを合わせていた記憶があります。

ブリティッシュやフレンチとのミックススタイルにも絶好

M.E. その頃の西口さんも見てみたいですね(笑)。それでは、今ならどういうふうにコーディネートすることが多いですか?

西口 たとえばドレスのテイストにまとめるなら、英国柄のテーラードジャケットにレザーシューズを履いて、ブリティッシュアメリカンなイメージで着てもいいですね。もっとカジュアルにするなら、セントジェームスのバスクシャツをタックインして合わせると、フレンチな雰囲気になります。このパンツのいいところは、ある種の“クッション材”として重宝することなんです。

M.E. というと?

西口 たとえばバスクシャツのようなフレンチのアイコン的アイテムを着る場合、パンツもフレンチ色の強いものにするとトゥーマッチに見えてしまう場合もありますよね。その点、このミリタリーチノならフレンチテイストを保ちつつ、あくまで自然にまとまります。そういう中和役として機能するのも、このパンツがもつ中庸さゆえといえますね。

M.E. 先ほど「白米のような洋服」と表現されたのには、今おっしゃったような意味もあるんですね。

西口 そのとおりです。武骨すぎず、キメすぎない表情なので、テーラードにもカジュアルにも合うというわけですね。ちなみに、ドレスっぽく穿くときにはセンタークリースを入れるのもちょっとしたこだわりです。

M.E. それは興味深い! ラギッドなチノパンにクリースを入れるというのが、ドレスに精通した西口さんならではのセンスですね。

西口 実は当時の軍人たちも、しっかりクリースを入れてこのパンツを穿いていたようなんです。アイロンでプレスした跡が残っているものも多いんですよね。いずれにしろ、クリースを入れるとシルエット美がいっそう際立って、テーラードウェアにより合わせやすくなります。

M.E. そうだったんですか。では最後に、当作を探す際に気をつけるべきポイントについて伺えますか。

西口 軍モノですから、結構汚れや傷みが気になるものもあります。フロントジップの状態もチェックしておきたいところですね。メジャーなアイテムのようで実は意外と流通量が多くないのですが、じっくり探せばデッドストックに出会えることもあります。サイズ感に関しては、もちろんインチアップして穿いてもいいのですが、ジャストサイズで状態のいいものを見つけたら狙い目だと思います。それから面白いのは、生産工場や時期などによって生地の色みに違いがあること。そのあたりを吟味するのもなかなか楽しいですよ。こちらも昨今のヴィンテージ人気でニーズが高まっていますから、ご興味があれば早めに探し始めることをおすすめします。

<p><strong>素朴な作りのベルトループ</strong><br />
「一般的なパンツに比べてベルトループが小さめ。これはウエストバンドを縫い付ける際、一緒にベルトループも取り付けてしまおうという合理化の結果でしょう。簡素な作りですが、そこに味わいを感じます」</p>

素朴な作りのベルトループ
「一般的なパンツに比べてベルトループが小さめ。これはウエストバンドを縫い付ける際、一緒にベルトループも取り付けてしまおうという合理化の結果でしょう。簡素な作りですが、そこに味わいを感じます」

<p><strong>裾の処理も独特</strong><br />
「現在のチノパンはタタキで裾を仕上げるのが一般的ですが、こちらはシングル仕上げになっています。まつり縫いのステッチが表側からはっきりと見えるのも特徴的で、ベルトループ同様に素朴ながら味があります」</p>

裾の処理も独特
「現在のチノパンはタタキで裾を仕上げるのが一般的ですが、こちらはシングル仕上げになっています。まつり縫いのステッチが表側からはっきりと見えるのも特徴的で、ベルトループ同様に素朴ながら味があります」

<p><strong>ハリ感が美しいチノクロス</strong><br />
「チノパンとは本来、チノ・クロスと呼ばれる丈夫な綾織り生地で作ったパンツのこと。もちろん当作もチノクロスを採用しています。穿きこんでも洗濯するとパリッとした風合いが復活し、ヤレにくいのが特徴的です」</p>

ハリ感が美しいチノクロス
「チノパンとは本来、チノ・クロスと呼ばれる丈夫な綾織り生地で作ったパンツのこと。もちろん当作もチノクロスを採用しています。穿きこんでも洗濯するとパリッとした風合いが復活し、ヤレにくいのが特徴的です」

<p><strong>クリースは股下のみが鉄則</strong><br />
「テーラードジャケットやニットポロといったドレス感のあるアイテムに合わせるときはクリースを入れて穿きますが、その際にひとつポイントが。このミリタリーチノはノープリーツなので、腰周りにはクリースを入れず股下からプレスしています。基本セオリーなので是非ご留意を」</p>

クリースは股下のみが鉄則
「テーラードジャケットやニットポロといったドレス感のあるアイテムに合わせるときはクリースを入れて穿きますが、その際にひとつポイントが。このミリタリーチノはノープリーツなので、腰周りにはクリースを入れず股下からプレスしています。基本セオリーなので是非ご留意を」

<p><strong>腰位置でフィットさせ美シルエットを演出</strong><br />
ワタリ・裾ともにワイドでありながら、無駄なダブつきのない絶妙なシルエット。後ろ姿も大変美しい。「ハイウエストに設計されたチノパンをしっかり腰の位置に合わせて穿くことで、ヒップラインからワタリ、裾へとまっすぐに繋がる美しいシルエットを出すことができます」</p>

腰位置でフィットさせ美シルエットを演出
ワタリ・裾ともにワイドでありながら、無駄なダブつきのない絶妙なシルエット。後ろ姿も大変美しい。「ハイウエストに設計されたチノパンをしっかり腰の位置に合わせて穿くことで、ヒップラインからワタリ、裾へとまっすぐに繋がる美しいシルエットを出すことができます」

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