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渡辺 動き始めると楽しいですよね?

中井 楽しいですね。現場にいる人にしかわからない一体感が生まれます。その見えない空気感が、画面にも映るんですよね。昔、高倉 健さんがよく“気”という言葉を使っていらっしゃいました。当時は十分に理解できなかったのですが、芝居をやればやるほど、突き詰めるところは“気”しかなくなってくるんです。

渡辺 セリフ回しとか、技術的なものはとれていっちゃう?

中井 そうですね。僕は最終的に、“気持ちの入った棒読み”を目指しているんです。芝居を始めたてのころは、誰でも棒読みから入りますよね。それだけだとただの“できない俳優”。でも、全部できたうえであえて“やらない俳優”になりたい。そのために今はまず“できる俳優”になることを追求しています。そこを通ったあとの棒読みは、最初とは別物の“気”が入ったものになるはずなんです。

渡辺 それは興味深い。

2016年中井貴一さん連載
1997年の本誌企画で中井貴一さんが仕立てた壹番館洋服店のビスポークスーツ。2016年には、連載「中井貴一の好貴心」で大幅なお直しに挑戦。“仕立て服は何十年と着ることができる”という通説の“臨床実験”を行った。

中井 スーツに関しても、“僕は壹番館で作りたい”、“新さんに仕立ててもらいたい”っていう“気”が一番大切なんじゃないですかね。その交歓によって、かけがえのない一着ができあがっていく。デザインや素材は、“気”があってこそのように感じてしまうんですよね。今、僕が着ているスーツも、改めて着ると25年前に仕立ててもらって、5年前にお直しで生まれ変わって……という歴史を思い起こさせてくれます。

渡辺 ありがとうございます。“気”という言葉で思い出しましたが、以前ある人が「うちの商材はお客さんの気を晴らしてもらうためのものだから」と言っていました。“気晴らし”というとネガティブなイメージもありますが、“気”を晴らす=“気”を再生させることは今こそ大切だと思います。それはお芝居でも、食事でも、洋服でも実現できると思っています。

中井 少し気晴らしに、って壹番館に来るのは、贅沢感があっていいですね。

渡辺 改装してから、お話をしにいらっしゃる方も増えました。それって我々にとっては嬉しいことなんです。

後編に続く

Profile
俳優 中井貴一さん

1961年、東京・世田谷生まれ。4月18日より、主演を務めるWOWOW開局30周年連続ドラマW『華麗なる一族』(原作:山崎豊子、新潮文庫刊)が放送開始(毎週日曜・22時から)。舞台は高度経済成長期の日本。中井さん演じる万俵コンツェルン総帥・万俵大介とその家族による、富と権力をめぐる壮大な野望と愛憎を描いた物語が繰り広げられる。

Shop Data
壹番館洋服店

1930年創業。日本洋装文化の黎明期から続くテーラーとして、今も別格の地位を誇る。1997年より代表取締役社長を務める渡辺 新さんは創業家の3代目で、慶應義塾大学卒業後にイギリスとイタリアで服作りを修得。同店の看板を守りつつ、銀座の街を盛り上げる振興活動にも取り組む。住所:東京都中央区銀座5-3-12 TEL:03-3571-0021 営業時間:10時〜19時(日曜・祝日11時〜18時) 定休日:火曜

[MEN’S EX Spring/Summer 2021の記事を再構成]

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