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加藤いざというときとは?

小川「テクニクス」を復活させたとき、私が担当として新しい部署に異動したのは5月で、ドイツでの発表は9月と決まっていました。つまり8月には評論家にもお客様にも納得していただける音にして商品を完成させなければならないのに、5月の段階ではそれに程遠い状態でした。そこから発表までの4ヶ月は会社員人生の中で最も集中して力を発揮できたんじゃないかと思っています。まさに”いざというとき”でしたね。

加藤まさに小川さんが最大限の力を出したことで生まれた「テクニクス」のスピーカーから出る音は、対談の前にリスニングルームで体験させていただきましたけど、音楽がかかった瞬間に全身に鳥肌が立ちました! 視覚でも楽しませてくれるライブとかが身近になり過ぎて、音に対して新しい発見を怠っていたことに気付かされましたし、音楽が心底好きな方々なら、500万円を超えるという価格を払ってでも手に入れたいと思うだろうなと思います。

小川私自身もスマホで簡単便利に音楽を聴いてしまうんですが、それを否定するのではなく一方で、もっと奥が深く幅が広い音楽の世界があることをまだまだ知らなければならないと思っています。それが音楽という文化の力を高めていくことにつながる。程なくAIやロボティクスと完全に共存する時代が来ても、人間が中心となって、人間らしさを100パーセント発揮して、人間としてどう幸せに生きていけるか。そういう未来を、全ての技術者は自分の頭で考えて目指さないといけない。ある程度の倫理観も必要になります。

加藤小川さんが届けたいとお話しされた生命力のある音楽は、それを感じることができる人間の力があって生かされるわけですね。

小川そういうことですね。ちなみに、去年シリコンバレーの方々とパネルディスカッションをしたときに、彼らは「人間はデジタルの世界の中で生きていけると信じています」とおっしゃって、びっくりしてしまって……。私は即座に「そうは思いません」と発言して、「なぜならば、私が実際にピアノを演奏するときには潜在的な力が生まれて、細胞が踊り出して、ゾーンに入る瞬間があります。そのときの体の反応のようなことを、デジタルで表現できますか?」と。つまり、正しいと思う持論や未来をちゃんと示していくことが、今はすごく大事な時代だと思います。デジタルなどのテクノロジーも、使い方によっては人間がコントロールされてしまいますよね。

加藤本当にその通りですね。最後に小川さんのように優秀な女性の登用のし方を、MEN’S EX読者に向けてぜひ。

小川私がパナソニックに入社した1986年は男女雇用機会均等法元年で、30数年が経ちましたが、働く女性の絶対数は依然少ないと思いますし、多様性推進だとか人事的に様々な制度が設けられているのに、それを現場に定着させるのにあまりに時間がかかっています。そういう意味でリーダーが「この制度を積極的に活用すべきだ」と部下の背中を押してあげたり、率先垂範して現場の声を吸い上げて欲しいと思いますね。

カトMEMO

  • 技術的な視点と感性を生かした視点、双方を持つことが大切。
  • 多様性を受け入れるだけではなく、受け入れるうえでのバランス感覚も必要。
  • 没個性の時代は終わった。”個”としての自分を持ち、確固たる個性を放つことが重要。
  • 信念を貫き、行動力と情熱を大切にし、自らが良いと思ったことに自信を持つ。

[MEN’S EX 2019年12月号の記事を再構成]
撮影/鈴木泰之 スタイリング/後藤仁子 ヘアメイク/野口由佳 文/岡田有加(Edit81)

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